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戦友

美空ひばり

ここは御国みくに何百なんびゃく
はなれてとお満州まんしゅう
あか夕日ゆうひらされて
とも野末のずえいしのした

おもえばかな昨日きのうまで
まっさきけて突進とっしん
てきをさんざんちょうしたる
勇士ゆうしはここにねむれるか

ああたたかいの最中さいちゅう
となりにったこのとも
にわかにはたとたおれしを
われはおもわずって

軍律ぐんりつきびしきなかなれど
これを見捨みすてておかりょうか
「しっかりせよ」とおこ
かり繃帯ほうたい弾丸だんがんなか

おりからおこる突貫とっかん
ともはようようかおあげて
御国おくにのためだかまわずに
おくれてくれな」となみだ

あとにこころのこれども
のこしちゃならぬこの身体からだ
「それじゃくよ」とわかれたが
ながわかれとなったのか

たたかいすんでれて
さがしにもどるこころでは
どうぞきててくれよ
ものなといえとねがいうたに

むなしくえてたましい
くにへかえったポケットに
時計とけいばかりがコチコチと
うごいているもなさけなや

おもえば去年きょねん船出ふなでして
御国おくにえずなったとき
玄界灘げんかいなだをにぎり
をなのったがはじめにて

それよりあと一本いっぽん
煙草たばこ二人ふたりわけてのみ
ついた手紙てがみうて
うえばなしくりかえし

かたいては口癖くちぐせ
どうせいのちはないものよ
んだらほねたのむぞと
いかわしたる二人ふたりなか

おもいもよらぬわれ一人ひとり
不思議ふしぎいのちながらえて
あか夕日ゆうひ満州まんしゅう
とも墓穴ぼけつろうとは

くまなくれたつき今宵こよい
こころしみじみふでとって
とも最期さいごをこまごまと
親御おやごへおくるこの手紙てがみ

ふではこびはつたないが
行燈あんどんのかげでおやたちの
よみまるるこころおもいやり
おもわずおとすひとしずく
おもわずおとすひとしずく