観音橋を渡らず右へ
煤けた寺の縁の下くぐり
グスベリの木に登って落ちた
私は橋のこちらの異人
観音橋の こちらの岸は
来ては立ち去る他所者長屋
橋の向こうのひそひそ話
話しかければ ちりぢり逃げる
グスベリの粒ぶっつけたの誰ぁれ
観音さんの おつかい坊主
「おまえバカだな ここいらの言葉
ひとことくらい語ってみろや」
観音橋を ものともせずに
ませた娘が恋しに行った
鶏の羽むしる生業を見て
逃げて来たわと私に明かす
グスベリの粒拾ったの誰ぁれ
観音さんの手伝いばぁや
「めし喰う術は せつないもんや
橋のこちらの娘にゃわからん」
観音橋を離れず居ます
薄い縁の身内のように
どうせ離れてゆくのだろうと
泣いたあなたの味方で居ます
グスベリの粒忘れたの誰ぁれ
橋を渡って あなたは消えた
グスベリの粒忘れたの誰ぁれ
私は ここを離れず居ます
グスベリの粒忘れたの誰ぁれ
私は ここを離れず居ます