阿檀の木の下で

中島みゆき

波なみのかなたから流ながれて来くるのは
私わたしの知しらない貝殻かいがらばかり
波なみのかなたから流ながれて来くるのは
私わたしの知しらない寿歌ほぎうたばかり
遠とおい昔むかしのあの日ひから この島しまに人ひとはいない
みんなみんな阿あ壇だんの木きになった
波なみのかなたから流ながれて来くるのは
私わたしの知しらない国歌こっかばかり

遠とおい昔むかしにこの島しまは戦いくさ軍いくさに負まけて貢みつがれた
だれもだれも知しらない日ひに決きまった
波なみのかなたから流ながれて来くるのは
私わたしの知しらない決きめごとばかり

陽ひは焼やきつける阿あ壇だんは生いきる
大地だいちを抱いだいて阿あ壇だんは生いきる
山やまの形かたちは雨あめ風かぜまかせ
島しまの行方ゆくえは波なみ風かぜまかせ
遠とおい昔むかしにこの島しまは戦いくさ軍いくさに負まけて貢みつがれた
だれもだれも知しらない日ひに決きまった
だれも知しらない木きの根ねの下したは
主ぬしの見捨みすてた貝殻かいがらばかり