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傾斜

中島みゆき

傾斜けいしゃ10坂道さかみち
こしがった老婆ろうばすこしずつのぼってゆく
紫色むらさきいろ風呂敷ふろしきつつみは
またすこしまたすこおもくなったようだ
彼女かのじょ自慢じまんだったあし
うすい草履ぞうりうえよこすべりよこすべり
のぼれども のぼれども
どこへもきはしない そんながしてくるようだ

ふゆからはるへとさかなつからよるへとさか
あいからふゆへとひとづたい
のぼりの傾斜けいしゃは けわしくなるばかり

としをとるのはステキなことです そうじゃないですか
わすれっぽいのはステキなことです そうじゃないですか
かなしい記憶きおくかずばかり
飽和ほうわりょうよりえたなら
わすれるよりほかないじゃありませんか

いきくるしいのは きっと彼女かのじょ
がけにしめたおびがきつすぎたのだろう
息子むすこ彼女かのじょ邪険じゃけんにするのは
きっと彼女かのじょ女房にょうぼうているからだろう
あのにどれだけやさしくしたかと
おもすほど あの他人たにんでもない
みせつけがましいとわれて
きすぎた白髪しらがのこりはあとすこ

だれかのむすめさかだれかのおんなさか
あいからよるへとひとづたい
のぼりの傾斜けいしゃは けわしくなるばかり

としをとるのはステキなことです そうじゃないですか
わすれっぽいのはステキなことです そうじゃないですか
かなしい記憶きおくかずばかり
飽和ほうわりょうよりえたなら
わすれるよりほかないじゃありませんか

ふゆからはるへとさかなつからよるへとさか
あいからふゆへとひとづたい
のぼりの傾斜けいしゃは けわしくなるばかり

としをとるのはステキなことです そうじゃないですか
わすれっぽいのはステキなことです そうじゃないですか
かなしい記憶きおくかずばかり
飽和ほうわりょうよりえたなら
わすれるよりほかないじゃありませんか