はじめて私に スミレの花束くれた人は
サナトリウムに消えて
それきり戻っては来なかった
はじめて私が長い長い手紙書いた人は
仲間たちの目の前で
大声で読みあげ笑ってた
私がまだ一人旅に憧れてた頃
もう幾つ目の遠回り道行き止まり道
手にさげた鈴の音は
帰ろうと言う急ごうと言う
うなずく私は帰り道も
とうになくしたのを知っている
はじめて私に甘い愛の言葉くれた人は
私が勤めた店に前借りに現われ雲隠れ
はじめて私に笑い顔がいいと言った人は
あれは私の聞き違い
隣の席の娘あての挨拶
もう幾つ目の遠回り道行き止まり道
手にさげた鈴の音は
帰ろうと言う急ごうと言う
うなずく私は帰り道も
とうになくしたのを知っている
はじめて私に永遠の愛の誓いくれた人は
ふたりで暮らす家の屋根を染めに登り
それっきり
はじめて私に昔は忘れろと言った人は
今度は彼の人違い
あまりに誰を待ちすぎたあげくに
もう幾つ目の遠回り道行き止まり道
手にさげた鈴の音は
帰ろうと言う急ごうと言う
うなずく私は帰り道も
とうになくしたのを知っている