00:00:04
(婦人)ああ その屋敷なら
この坂を上っていったところ
00:00:11
(ルンゲ)そうですか どうも
00:00:13
(婦人)いいえ
00:00:38
(ルンゲ)バラか…
00:00:40
まるで眠り姫の館だな
00:00:46
♪~
00:02:01
~♪
00:02:12
(アンナ)私の名はアンナ
アンナ・アンナリーベルト
00:02:18
頑張ってね 名刑事さん
00:02:21
あなたに何かあったらって
そう考えて…
00:02:25
私も あなたのお母さんと
同じ気持ちだから
00:02:31
(スーク)あ…
00:02:33
アンナ…
00:02:36
(ルンゲ)夢でも見てたかい?
スーク刑事
00:02:39
あ… あなたは?
00:02:41
(ルンゲ)
ルンゲ ドイツ連邦捜査局の警部だ
00:02:46
(スーク)連邦捜査局?
(ルンゲ)あ…
00:02:49
寝てらして結構
00:02:51
私がここへ来たのは
君の身柄を拘束するためではない
00:02:56
(スーク)あ…
00:02:59
(ルンゲ)
なかなか いい病室じゃないか
00:03:02
旧チェコスロバキア秘密警察と
00:03:05
つながりのあった病院を
いくつか当たって
00:03:08
ここに たどり着いたが この待遇…
00:03:11
旧秘密警察にとって
君は よほど重要な人物のようだ
00:03:16
いや 僕は ただ…
00:03:18
(ルンゲ)
君に関する話 全て知っているよ
00:03:22
秘密警察と癒着していた
ゼマン警部が撲殺されたこと
00:03:26
プラハ警察署 署長と
刑事2名が毒殺されたこと
00:03:32
君を尾行していた2名の刑事が
射殺体で発見されたこと
00:03:37
そして君は
00:03:38
それら全ての事件の
重要参考人として追われていること
00:03:44
どの事件も状況証拠だけ見れば
君が犯人だが…
00:03:49
違う 僕は何もしていない
00:03:52
じゃあ ゼマン警部が
撲殺される前日⸺
00:03:55
取り調べをした
グリマーという長身の男…
00:03:58
グリマーさんも違う
彼は そんなことする人間じゃない
00:04:02
じゃあ 犯人は誰だ?
00:04:04
(スーク)あっ…
00:04:06
(ルンゲ)
知ってるんじゃないのかね?
00:04:09
君は犯人を
知ってるんじゃないのかね?
00:04:14
な… 何 言ってるんです?
00:04:16
知ってたら
僕はこんな目に遭ってません
00:04:21
いろんな人に裏切られて
僕が犯人に仕立て上げられ
00:04:25
警察に追われる羽目になって…
00:04:28
もう こりごりだ
もう誰にも裏切られたくない!
00:04:33
君は刑事だろ
00:04:37
刑事なら 全てのことに
冷静にメスを入れなきゃならない
00:04:43
ささやかな幸せを壊してでも
00:04:46
冷徹に真実を
えぐり出さなきゃならない
00:04:50
(立ち上がる音)
00:04:54
(ルンゲ)
もう誰にも裏切られたくないのなら
00:04:58
一番 疑いたくない人物まで疑え
00:05:04
(ドアの開く音)
00:05:12
(男性)
誰の許可を得て面会している?
00:05:15
ん?
00:05:19
あっ… うっ
00:05:22
ボスに会わせろ
00:05:23
うっ ひっ…
00:05:26
バラの屋敷の件で話があると伝えろ
00:05:29
そうすれば彼は会う気になる
00:05:36
(ランケ)
ドイツ連邦捜査局のルンゲ警部
00:05:39
素性 経歴は調べさせてもらったよ
00:05:43
(ルンゲ)私も旧体制時代から
おうわさは かねがね ランケ大佐
00:05:48
そして今や
旧チェコスロバキア秘密警察の⸺
00:05:51
実質的な指導者
00:05:54
この時節柄
なかなか苦労の多い大役だ
00:05:58
ご心配ありがとう
00:06:00
君のように長期休暇の取れる身分が
羨ましいよ
00:06:06
2年ほど前 ドイツ民主党 党首候補
ボルツマン議員の秘書を
00:06:12
強引な捜査で
自殺に追いやったそうじゃないか
00:06:16
世渡りは
うまくしなけりゃいけませんよ
00:06:20
あなた方は まぬけだ
00:06:24
民主化の際にソフト路線を取り
00:06:27
その実 秘密を管理していれば今頃
00:06:30
あなたは影の大統領として
この国に君臨できたのに…
00:06:35
だが もはや民衆が あなた方に
抱いている恐怖は幻想だ
00:06:41
(ランケ)
フフフフ… なるほど
00:06:44
君は賢い
その賢い君が一体 何の用だね?
00:06:49
いや ご存じのとおり
長期休暇中なもので
00:06:54
半分 遊びなんですがね
00:06:56
捜しているんですよ
00:07:00
本当の恐怖の存在を
00:07:06
あなた方の作り出した幻想から
00:07:08
本物の悪魔が生まれた可能性が
あるのかどうか…
00:07:14
で 赤いバラの屋敷かね?
00:07:23
(ルンゲ)
あの屋敷に たどり着くまで
00:07:25
いろいろと歩き回りました
00:07:27
何しろ この作家には たくさんの
ペンネームがありますからね
00:07:32
「なまえのないかいぶつ」
作者名は エミル・エミルシェーベ
00:07:37
住所はプラハ市内の古いビルの一室
00:07:40
今は他の会社が借りている
00:07:43
クラウス・クラウスポッペ名義の住所は
郊外の古い農家
00:07:47
これは もう取り壊されていました
00:07:49
ヤコブ・ヤコブファロベック名義も
ただの貸し事務所
00:07:53
(ランケ)
で たどり着いたわけか?
00:07:58
フランツ・フランツボナパルタに
00:08:01
何なんですか? あの屋敷
00:08:06
フランツ・フランツボナパルタとは
何者なんですか?
00:08:12
彼について どんなに調べても
何も出てこない
00:08:16
となると あなた方の領域の人物
00:08:19
旧チェコスロバキア秘密警察の
人間だ
00:08:23
何を知りたいんだ?
00:08:26
(ルンゲ)あなたが
知っていることが知りたいんですよ
00:08:30
何も知らない
00:08:33
ただ…
00:08:34
(ルンゲ)ただ?
00:08:36
意識的に
忘れようとしていたことがある
00:08:43
私は あの屋敷の存在を
忘れようとしていた
00:08:47
だから触れもせず何もいじらず
今も あそこに建っている
00:08:52
あの屋敷に連行された政治犯
00:08:56
あそこにいた研究員全員が
ある日 消えた
00:09:03
ただ それだけだ
00:09:10
あの壁は 何なんですか?
00:09:13
壁?
00:09:14
私は先日 あの屋敷の中に
入らせてもらいました
00:09:19
誰も足を踏み入れた形跡がない
完全な廃屋 ただ…
00:09:24
2階 北側の壁
00:09:27
慌てて何かを封じ込めたかのように
塗り込められた壁…
00:09:36
あの壁 壊してもいいですか?
00:09:40
(ランケの震える声)
00:09:46
(ルンゲ)
何をおびえているんです?
00:09:48
ランケ大佐
00:09:49
(ランケ)死ぬかもしれんぞ
00:09:53
これ以上 あれに近付くと 君も私も
00:09:59
本当の恐怖を
見ることになるかもしれんぞ
00:10:05
(スコップで掘る音)
00:10:19
(ルンゲの力み声)
00:10:24
(ルンゲ)ふんっ
00:10:35
(ルンゲの力み声)
00:10:41
(ルンゲ)ふんっ
00:10:45
ハァ ハァ ハァ ハァ…
00:11:49
(ゾバック)
フランツ・フランツボナパルタですか
00:11:51
(ゾバック)懐かしい名前だな
00:11:54
コーヒーにミルクか砂糖は?
00:11:56
(テンマ)
あっ ブラックで結構です
00:12:01
(テンマ)何か?
00:12:02
(ゾバック)いや… 今頃になって
00:12:05
フランツ・フランツボナパルタの
ファンの方が現れるとは…
00:12:08
(テンマ)モラビア出版社で
聞いてきました
00:12:11
ゾバックさん あなたは長く
00:12:14
作家のボナパルタ氏の
担当編集者をされていたそうですね
00:12:18
(ゾバック)ええ
ただ 私の担当していたのは
00:12:22
彼がクラウス・クラウスポッペの
ペンネームを使っていた時でね
00:12:25
彼が どんな人物だったのか
お聞きしたいんですが
00:12:31
フランツ・フランツボナパルタか
00:12:33
彼は仕事の打ち合わせを
この家にやってきて したものです
00:12:37
そう ちょうど その椅子に
そうやって座っていた
00:12:47
庭で うちの娘と
よく遊んでいたっけ…
00:12:51
ただ当時 娘が変なことを言ったな
00:12:55
“あの おじさん怖い”って
00:12:57
(テンマ)ん?
00:13:00
娘も 今となっちゃ
あんな小さな時のこと
00:13:04
覚えてないでしょうがね
00:13:06
彼は 当時の政府機関の
人間だったんでしょうか?
00:13:11
でしょうね 私は そう思って
付き合ってましたよ
00:13:16
ただ 物腰や話し方 着ている服など
00:13:20
およそ 旧体制下の政府の
要人らしからぬ柔らかさ
00:13:24
そして優雅さがありました
00:13:27
ボナパルタは精神科の博士号を
持っていたし心理学者でもあった
00:13:33
専門は脳外科でした
00:13:35
は… はあ…
00:13:40
最後に会ったのは いつだったか…
確か81年か82年の夏
00:13:46
そう あの日 彼は
ふらっと この家にやってきて
00:13:50
新作の話などして…
00:13:53
ああ 妙に すがすがしい顔を
してたな
00:13:57
(テンマ)新作って
どんな話だったんですか?
00:14:00
(ゾバック)フフフッ
(テンマ)ん?
00:14:03
怪物が恋する話だったね
00:14:07
でも それは「美女と野獣」と
「眠り姫」を合わせたような話でね
00:14:13
私 ボツにしたんですよ
00:14:15
そしたら 帰る間際
ドアのところで…
00:14:20
“そうだ こんなのは
どうだろう?”って
00:14:24
彼 振り返って…
00:14:26
“絶対 開けちゃいけない扉の話”
00:14:30
私は聞いた
00:14:31
“その中は楽園かい?
怪物が出てくるのかい?”
00:14:36
すると彼は
00:14:38
“いや 絶対 開けちゃいけないから
話にならないか”
00:14:44
そう言うと 笑って帰っていった
00:14:47
彼と会ったのは それが最後だ
00:14:57
(グリマー)
何かボナパルタってやつについて
00:15:00
めぼしい話は聞けたかい?
00:15:02
いや 大した話は…
00:15:05
グリマーさん
ここで何してたんですか?
00:15:09
ああ…
00:15:12
いい天気だなあと思って
00:15:17
(テンマ)そうですね
00:15:19
やっぱり…
00:15:22
ああ もしもし 警察かい?
00:15:25
私はシュヴァイク広場の
ゾバックという者だがね
00:15:28
今 うちに訪ねてきた男
00:15:31
どうやら ドイツで起きた
連続殺人事件の⸺
00:15:34
重要参考人じゃないかと思うんだ
00:15:37
ああ 日本人だ
脳外科医のDr.(ドクター)テンマ
00:15:54
(ルンゲ)
エタノール… 消毒液のにおいか
00:16:01
(ルンゲ)うっ!
00:16:03
うっ
00:16:05
あっ… うっ
00:16:25
(ルンゲ)死… 何人…
ここで何人 死んだ?
00:16:31
10人…
00:16:33
20人…
00:16:36
いや もっとか
00:16:43
(ルンゲの力み声)
00:16:59
(ルンゲ)あの女…
00:17:01
スケッチブックの女か
00:17:05
双子の母親か?
00:17:09
(ベルの音)
(子供たちの騒ぎ声)
00:17:11
(男の子)ハハッ 早く行こうぜ!
ハハハハ…
00:17:13
(男の子)さあ 早くしないと
00:17:15
サッカーグラウンド
上級生に取られちゃうぞ
00:17:18
(男の子)早くしろ ミローシュ
00:17:19
(ミローシュ)あ… うん
00:17:21
(男の子)いけー!
カウンターアタックだ!
00:17:23
(男の子)やばい 下がれ
00:17:25
(男の子)ゴール前 がら空きだ!
00:17:26
(男の子)やられた ゴール
00:17:28
(男の子)よーし 行け!
00:17:30
(衝撃音)
00:17:32
(男の子)ミローシュ!
(男の子)大丈夫か ミローシュ!
00:17:34
しっかりしろ ミローシュ
00:17:36
あっ うう… あ…
00:17:39
(男の子たちの笑い声)
00:17:40
(男の子)ナイスディフェンスだ
ミローシュ!
00:17:42
(男の子)ナイスクリア!
ゴールを守ったぞ
00:17:44
(ミローシュ)えっ…
(男の子)やったな ミローシュ!
00:17:47
ヘヘヘッ
00:17:48
(男の子たちの笑い声)
00:17:51
あの笑い方… もう大丈夫だよな?
00:17:56
どう思う? Dr.テンマ
00:17:59
(テンマ)ええ…
00:18:05
グリマーさん
00:18:06
ミローシュや他の子供たちに
会っていかないんですか?
00:18:12
(グリマー)俺が サッカー
うまくなかった理由が分かったよ
00:18:17
チームプレーってやつか
00:18:23
(テンマ)
これからヤン・ヤンスーク刑事は
00:18:24
どうなるんでしょう?
00:18:26
事件の重要参考人として
指名手配され
00:18:30
社会的に抹殺されたも同然だ
00:18:33
仮に自首したとしても どうやって
あいつの無実を証明する?
00:18:38
事件現場から立ち去った
金髪の女の実在を どう証明する?
00:18:43
スークは あんたと
まったく同じ状態なんだ
00:18:47
ただ1つのことを除いてな
00:18:50
ん?
00:18:53
お別れだ Dr.テンマ
00:18:56
えっ?
00:18:57
今回の一連の事件
00:19:00
その詳細を知る人物が
1人だけいる
00:19:04
ここにな
00:19:07
どうだい?
こういうのを警察に送ると
00:19:15
これは?
00:19:16
(グリマー)
連続殺人犯からの手紙ってやつだ
00:19:20
犯人以外 絶対に知りえない
秘密の暴露ってやつが
00:19:25
克明に記されているだろ?
00:19:27
し… しかし こんなもの
警察に送ったら あなたは…
00:19:33
グリマーは いつの間にか
ドイツに舞い戻ってる
00:19:37
警察の手が回るだろうが
00:19:39
グリマーという人間なら
うまく逃げられる
00:19:43
だって あいつは
元腕利きのスパイだからな
00:19:48
しかし 一生 疑いをかけられて
逃げ回ることに…
00:19:52
平気だよ
00:19:54
だって グリマーなんて人間は
もともと この世にはいないんだ
00:20:00
誰かが勝手に
俺に与えたものなんだ
00:20:03
グリマーってやつが
一生 疑われても⸺
00:20:06
俺は全然 平気だ
00:20:10
なんてな Dr.テンマ どう思う?
こんな やり方で…
00:20:14
あっ いや… いいんだ
00:20:18
これから あんた
例のバラの屋敷に行くんだろ?
00:20:22
(テンマ)え… ええ
00:20:24
いよいよ あんたの標的も
近いかもしれないな
00:20:27
いや… 分からない
00:20:30
(グリマー)むちゃをするなと
言っても 聞く耳はないか ただ…
00:20:36
死ぬなよ
00:20:44
(テンマ)グリマーさん
00:20:47
チェコ国境を越えた時の約束…
00:20:50
また どこかで会えたら
ピクニックしましょう
00:20:54
すばらしい景色の中でのマス釣り
00:20:57
うまいワインに うまいチーズ
00:21:00
また どこかで
00:21:13
(パトカーのサイレン)
00:21:20
フゥ… これからは ずっと
あの音におびえて暮らすわけか
00:21:27
(男の子たちの笑い声)
(男の子)待ってよー
00:21:30
(男の子)うっ… うっ
00:21:31
(男の子の泣き声)
00:21:33
(男の子)うわあ… 痛いよ~!
00:21:36
うあっ 痛いよ~!
うううっ… うっ…
00:21:41
ううっ うう…
00:21:43
どうした?
ちょっと見せてごらん
00:21:45
いてっ! うっ…
00:21:48
ただの かすり傷だ
消毒液だけ つけとくか
00:21:53
(男の子)うっ うう…
00:21:56
うっ いたたっ!
00:21:59
男の子だろ? 我慢しろ
00:22:02
(男の子)うっ う… うう…
(テンマ)よし 強い子だ
00:22:06
うっ う…
ヘヘヘ… ヘヘヘ…
00:22:09
(足音)
00:22:10
(男の子)うっ あ…
(テンマ)ん?
00:22:14
(刑事)ケンゾー・ケンゾーテンマだな?
00:22:15
あっ…
00:22:17
(刑事)警察だ
署まで ご同行願いたい
00:22:21
んっ…
00:22:29
{\an8}♪~
00:23:33
{\an8}~♪