0.00.27
(吹雪の音)
0.01.03
(大悟(だいご)) 子供のころに感じた冬は―
0.01.07
こんなに寒くなかった
0.01.15
東京から山形の田舎に戻って もうすぐ2か月
0.01.20
思えば 何とも おぼつかない 毎日を生きてきた
0.01.40
(女性)どうぞ こちらです
0.01.44
(佐々木(ささき))失礼いたします (大悟)失礼します
0.01.47
(父親)おい
0.01.56
(佐々木)このたびは誠に ご愁傷さまでございます
0.02.00
(佐々木) ご納棺のお手伝いに参りました
0.02.03
ご焼香させていただいて よろしいでしょうか?
0.02.06
(母親)はい (父親)お願いします
0.02.08
(一同) ありがとうございます
0.02.15
(鈴(りん)の音)
0.02.37
(大悟) まだ生きてるみたいですね
0.02.41
(佐々木)たぶん 練炭自殺だ
0.02.43
(大悟) どうして 分かるんですか?
0.02.45
(佐々木)傷んでない
0.02.48
寒い車内で死んで 発見が早いと こうなる
0.02.55
(大悟)美人なのに
0.03.01
やってみるかい?
0.03.07
はい
0.03.11
それでは ただ今より―
0.03.12
故人さまの安らかな 旅立ちを願いまして―
0.03.15
納棺の儀 執り行わせていただきます
0.03.18
皆さま どうぞお近くで お見守りください
0.04.18
(鈴の音)
0.05.22
(大悟)それでは お体を 拭かせていただきます
0.05.45
(大悟)ん?
0.05.48
ん?
0.05.59
ついてるんですけど…
0.06.01
(佐々木)何が?
0.06.02
(大悟)アレです
0.06.04
(佐々木)アレって?
0.06.06
(大悟)だから アレです
0.06.35
(佐々木)ん?
0.06.40
ん?
0.06.52
(佐々木)あのー ちょっと よろしいでしょうか?
0.06.55
(叔父)はい 何か?
0.06.56
(佐々木) これから お着付けをした後―
0.06.59
故人さまに お化粧をするんですが―
0.07.03
女性用のお化粧と 男性用のお化粧がありまして…
0.07.06
ああ… ちょっと待っての
0.07.09
はい
0.07.11
(叔父)姉さん 留男(とめお)の化粧 どっちさするかって
0.07.14
男さする? 女子(おなご)さする?
0.07.18
のう どっちさ?
0.07.20
(母親)おいが最初から 女子に生んであげてたら―
0.07.24
こんなことに ならねかったのに…
0.07.29
種がのう
0.07.35
女子で ええんやの? 女子で?
0.07.37
ええ
0.07.39
女で お願いします
0.07.40
かしこまりました
0.07.42
(鈴の音)
0.07.52
(父親)留男…
0.08.15
(「ベートーヴェン:交響曲第九番 ニ短調作品125」の演奏)
0.09.14
(合唱)
0.10.06
(大悟)ああ~
0.10.08
今日も少なかったですねえ (同僚)うん
0.10.10
(大悟) もっと宣伝にも力入れた方が いいと思うんだけどなあ
0.10.15
そうだ!
0.10.17
楽団のホームページ作りません?
0.10.19
うちのかみさん ウェブデザイナーだから―
0.10.20
タダでやらせますよ
0.10.22
どうすかね どうすかね
0.10.23
(同僚)それよりさ 大悟君 大丈夫?
0.10.26
(大悟)ん? 何がですか? (同僚)次だよ 次
0.10.29
(大悟)次って?
0.10.30
(同僚)無理して いいやつ買ったんなら―
0.10.32
次 探しとかないと
0.10.34
(事務員)え~ 皆さま 本日も お疲れさまでした
0.10.38
(一同)お疲れさまでした
0.10.40
(事務員)客席は やや寂しかったものの―
0.10.42
演奏内容は すばらしかったと思います
0.10.47
(事務員)え~と 実はですね
0.10.52
今日は その…
0.10.55
当楽団のオーナーである 曾根崎(そねざき)さんから―
0.10.58
皆さんに お話があるということですので―
0.11.01
ちょっと お聞きください
0.11.16
(曾根崎)か 解散… します
0.11.28
(同僚)じゃあな
0.11.33
(大悟)ようやく つかんだ オーケストラ奏者という職業
0.11.36
それは一瞬にして 過去の思い出となった
0.11.42
このチェロには何の罪もない
0.11.46
僕のような人間に 買われたばかりに―
0.11.49
仕事を失ってしまったのだ
0.11.52
あらゆる意味で―
0.11.54
このチェロは 僕には重たすぎた
0.12.00
(ドアの開く音)
0.12.01
(美香(みか)) ありがとうございました
0.12.03
(女性)早く食べてね (美香)はい
0.12.05
(女性)じゃ またね (美香)失礼します
0.12.07
(ドアの閉まる音)
0.12.08
(美香)ただいま
0.12.09
(大悟)おかえり
0.12.11
(美香)タコ もらっちゃった
0.12.14
ちょうど そこで お隣さんに会って
0.12.17
(美香)今朝 釣ってきたんだって
0.12.24
どうしたの?
0.12.28
(大悟)解散になった
0.12.31
(美香)何が?
0.12.33
(大悟)楽団
0.12.41
そう
0.12.44
また 次 探せばいいじゃない
0.12.46
次なんて ない
0.12.52
俺ぐらいの腕じゃ どうにも無理があるし
0.12.57
チェロの借金も
0.13.03
いくら?
0.13.11
大丈夫! 100万ぐらいだったら―
0.13.14
ウェブデザインの仕事で 何とか返せる
0.13.16
1800万
0.13.18
せ… 1800万!?
0.13.21
プロは みんな そのくらいの使ってるし
0.13.23
むしろ 安いくらいなんだよ
0.13.29
どうして隠してたの?
0.13.33
絶対 反対されると思って
0.13.38
(美香)そんな大事なこと…
0.13.41
何で言ってくれなかったの?
0.13.46
ごめん
0.13.53
(美香)はぁ…
0.13.57
ご飯 作るね
0.14.05
(大悟)“世界中の街が 僕たちの新居だ”
0.14.09
“演奏旅行をしながら 一緒に生きていこう”
0.14.13
それが プロポーズの言葉だった
0.14.18
しかし 現実は厳しかった
0.14.21
いや もっと早く―
0.14.24
自分の才能の限界に 気づけばよかったのだ
0.14.31
(美香)きゃあ!
0.14.33
どうした?
0.14.36
うっ (美香)このタコ 生きてる
0.14.38
ホントだ 生きてる
0.14.41
(美香)ちょっと ねえ 大(だい)ちゃん
0.14.43
どうしよう…
0.14.47
(大悟)はあ~
0.14.49
もう釣られるなよ
0.14.59
(大悟)あれ?
0.15.01
ん?
0.15.27
辞めようかな
0.15.31
何を?
0.15.34
チェロ
0.15.37
辞めて どうするの?
0.15.43
田舎に帰る 山形の
0.15.52
賛成!
0.15.54
えっ?
0.15.56
いいの?
0.15.59
だって お義母(かあ)さんが 遺(のこ)してくれたおうちだったら―
0.16.02
家賃もいらないんでしょ
0.16.04
えっ でも ホントにいいの?
0.16.06
うん
0.16.15
(店主)いい楽器ですね
0.16.16
(大悟)人生最大の分岐点を 迎えたつもりだったが―
0.16.20
チェロを手放した途端 不思議と楽になった
0.16.26
今まで 縛られていたものから―
0.16.28
スーッと 解放された気がした
0.16.32
自分が夢だと 信じていたものは―
0.16.36
たぶん 夢ではなかったのだ
0.16.52
2年前に死んだ母が―
0.16.55
たった一つだけ遺してくれた財産
0.16.59
最初は 父が喫茶店を やっていたらしいが―
0.17.05
僕には ほとんど その記憶がない
0.17.09
父が愛人を作って家を出た後―
0.17.12
母はここで ささやかな スナックを営み―
0.17.16
女手一つで僕を育て上げた
0.17.21
ご飯 できたよ
0.17.25
は~い
0.17.30
(美香)うん
0.17.32
(大悟)フフッ
0.17.33
(美香)ん? (大悟)田舎暮らし―
0.17.34
もっと嫌がるかと思ってた
0.17.37
(美香)ううん 結構 新鮮!
0.17.40
なんか お水が違うせいか ご飯もおいしく炊けるし
0.17.42
(大悟)ふ~ん
0.17.45
(美香)う~ん 私 お店とか やってみよっかな?
0.17.49
えー 何の? (美香)フフッ
0.17.56
これだ! (美香)ん?
0.17.58
これこれ “年齢問わず 高給保証”
0.18.02
しかも“実質労働時間わずか”
0.18.04
(美香)ハハッ (大悟)正社員で
0.18.06
NKエージェント? 何の会社?
0.18.09
“旅のお手伝いをする お仕事です”
0.18.12
旅行代理店かな
0.18.14
ああ 添乗員とか?
0.18.17
“未経験者歓迎”って 書いてあるから―
0.18.19
とりあえず 話だけ聞いてくるよ
0.18.21
(美香)うん
0.18.45
これだ
0.18.56
(大悟)ごめんください
0.19.00
こちら NKエージェントさんですか?
0.19.03
(上村(うえむら))はい
0.19.04
午前中に お電話した 小林(こばやし)と申します
0.19.08
ああー 面接の人
0.19.10
社長 すぐ戻るから ここ座ってて
0.19.13
(大悟)はい 失礼します
0.19.27
私ね―
0.19.29
社長が“新聞に出す”って 言った時 反対したの
0.19.34
(大悟)はあ
0.19.34
(上村)この業界 特に人集め難しいから
0.19.37
あの~ こちら 何の会社なんですか?
0.19.43
あれ? あなた 何も知らんで来たの?
0.19.46
“旅のお手伝いをする”って…
0.19.50
フフッ
0.19.53
(大悟) あ… ち 違うんですか?
0.19.55
(上村)フッ
0.20.04
(上村)あ 社長! 面接の人
0.20.07
(大悟)はじめまして 午前中にお電話した小林です
0.20.11
ああ 君か
0.20.15
電話より 明るいね
0.20.16
(大悟)あっ ありがとうございます
0.20.18
(佐々木) ほら 出してよかっただろ
0.20.20
お茶いれて (上村)はい
0.20.26
(大悟) 一応 履歴書を持ってきました
0.20.27
(佐々木)はいはい どうぞ
0.20.29
(大悟)失礼します
0.20.39
(佐々木) うちで どっぷり働ける?
0.20.40
(大悟)え? あっ ええ まあ
0.20.42
(佐々木)採用! (大悟)へっ?
0.20.44
(佐々木)あー 名前 何だっけ? (大悟)あ 小林大悟です
0.20.46
すぐ名刺 刷って
0.20.48
はーい
0.20.49
あっ ちょ ちょっと 待ってください
0.20.51
あの まだ何も… 給料とか もろもろ
0.20.54
ああ そっか
0.20.56
最初は 片手でどう?
0.20.59
片手?
0.21.02
(ライターの火をつける音)
0.21.03
5… 万円ですか?
0.21.05
50
0.21.07
50万!?
0.21.09
少ない?
0.21.09
いえいえ そ… そんなに いただけるんですか?
0.21.11
何なら 現金 日払いでもいいけど
0.21.13
いや あの ど… どんな仕事をすれば…
0.21.18
そうだなあ~
0.21.20
まずは 僕のアシスタントだな
0.21.26
あの具体的には?
0.21.28
(佐々木)具体的?
0.21.30
納棺
0.21.32
のうかん?
0.21.33
遺体を棺に納める仕事
0.21.37
咲いたなあ
0.21.40
遺体って 死んだ人のことですか?
0.21.45
君 面白い質問するね~
0.21.48
フッ
0.21.50
あ~ いや あっ いや あの… その~
0.21.54
募集広告には―
0.21.56
“旅のお手伝いをする”って 書いてあったので―
0.21.57
僕は てっきり 旅行代理店かなと…
0.22.01
(佐々木)ああ こりゃ 誤植だ
0.22.03
(大悟)誤植?
0.22.04
(佐々木)“旅のお手伝い” じゃなくて 安らかな…
0.22.09
“旅立ちのお手伝い”
0.22.11
旅立ち?
0.22.14
(佐々木) だから NKは納棺のNK
0.22.18
ああ~ はあ…
0.22.21
(佐々木)まあ これも何かの縁だ とにかくやってみて…
0.22.25
向いてないと思ったら 辞めりゃいいさ ねっ
0.22.29
これ 今日の分
0.22.31
あ いえいえ そんな…
0.22.32
(佐々木)大丈夫 大丈夫! (大悟)いえいえ そんな
0.22.38
あ…
0.22.50
(時報のサイレン)
0.22.55
(大悟)ただいま
0.22.57
ああ おかえり
0.23.00
(大悟)これ
0.23.01
どうしたの? これ (大悟)こっちに越したら―
0.23.03
“すき焼き食いたい”って 言ってたよね
0.23.06
(美香)米沢(よねざわ)牛?
0.23.08
特上のサーロイン
0.23.09
(美香)すご~い 高かったでしょう?
0.23.12
(大悟)給料 先にもらえたから
0.23.14
え? 仕事決まったの?
0.23.16
(大悟)うん まあね
0.23.18
(美香)やったあ! じゃあ お祝いだ 今日は
0.23.20
(大悟)うん まあ
0.23.21
で どんな仕事だったの?
0.23.23
やっぱり添乗員とか? (大悟)え? いや…
0.23.27
営業?
0.23.31
ああ どうしたの?
0.23.34
(大悟) 旅行代理店じゃなかったんだ
0.23.36
(美香)ふーん 何?
0.23.40
冠婚葬祭関係
0.23.42
ん? 結婚式場!?
0.23.44
(大悟)あ…
0.23.45
あっ 結局 またチェロ 弾かされたりしてね
0.23.50
あっ すぐ準備するね すき焼き
0.23.54
(大悟)うん
0.23.56
(美香)うれしい ああ おいしそう~
0.24.01
よし あっ シラタキあったかな?
0.24.09
(大悟)うん そんなに 遅くなんないと思う
0.24.16
(美香)いってらっしゃい (大悟)じゃあね
0.24.37
(ドアの開閉音)
0.24.45
おはよう
0.24.47
よろしくお願いします
0.24.49
(上村)新しい机 来るまで 社長の席 使って
0.24.55
あっ
0.24.58
名刺 できたわよ
0.25.00
誤植なし
0.25.02
ハハ…
0.25.21
(上村)そんなに珍しい?
0.25.24
本物は 初めて見ました
0.25.26
初めて?
0.25.27
ええ
0.25.28
祖父母は記憶のない時に 亡くなりましたし
0.25.31
母親の時も ちょうど 海外に出かけてて―
0.25.34
戻ってきたら お墓の中でしたので
0.25.36
(上村)お父さんは?
0.25.37
僕が6歳の時に 女 作って出ていきました
0.25.44
お母さん さみしかったでしょうねえ
0.25.57
でも―
0.26.00
死んだ人を 見たこともない人間が―
0.26.03
こんな仕事 できるんでしょうかね
0.26.05
そのうち慣れるわよ
0.26.06
はあ
0.26.09
死体に… ですか?
0.26.11
うん
0.26.13
陽気がいいから ここんとこ暇だけど―
0.26.16
季節の変わり目なんて…
0.26.18
(大悟)あっ 手伝いましょうか
0.26.22
(上村)仕事 バンバン入るから
0.26.25
仕事って どっから来るんですか?
0.26.26
葬儀屋さん
0.26.29
(大悟)葬儀屋? (上村)そう
0.26.31
納棺ってね 昔は家族でやってたものなの
0.26.36
それが 葬儀屋さんに 回されるようになって
0.26.39
そこから また うちみたいな会社ができて
0.26.43
ま 言ってみれば 超隙間産業 ハハッ
0.26.47
結構 重いんですね
0.26.51
棺もいろいろあるのよ
0.26.53
5万 10万 30万
0.26.56
(大悟)そんなに違うんですか? (上村)うん
0.26.57
左のは合板で 次が金具つきの二面彫り物
0.27.03
で 一番高いのが 総檜(ひのき)
0.27.06
(大悟)はあ~ 素材と飾りの違いですか?
0.27.09
(上村)そう 燃え方も同じ
0.27.12
灰も同じ
0.27.14
人生最後の買い物は 他人が決めるのよ
0.27.18
何だか皮肉ですね (上村)うん
0.27.20
(電話の着信音)
0.27.24
(上村)はい NKエージェントです
0.27.26
(においを嗅ぐ音)
0.27.27
(上村)はい いますけど
0.27.31
はい 港(みなと)座ですか?
0.27.33
今すぐ はい
0.27.37
(大悟)社長さんですか?
0.27.38
仕事
0.27.42
仕事…
0.28.04
(スタッフたちの話し声)
0.28.27
(AD)NKの人?
0.28.29
(大悟)あっ はい
0.28.30
(AD)いらっしゃいました
0.28.32
ああ 来た来た
0.28.39
あのー うちの新人 えー…
0.28.42
(大悟)小林です (佐々木)小林君です
0.28.44
今日のモデルです よろしくお願いしまーす
0.28.46
(大悟)モデル!? (スタッフたちの拍手)
0.28.50
(AD)着替え終わったら すぐに撮影 始めますのでの
0.28.53
よろしくお願いします
0.28.54
(美容師)せば あちらで 着替えとメイクしてもらっての
0.28.58
メイク? (美容師)うん はい
0.29.02
(大悟)社長…
0.29.03
大丈夫 大丈夫! はい お願いしまーす
0.29.05
(美容師)はーい
0.29.10
(佐々木のつぶやき声)
0.29.13
(佐々木)ご納棺にあたり まず最初に―
0.29.16
含み綿と湯灌(ゆかん)をいたします
0.29.18
え~ 湯灌には う~ この世の…
0.29.22
モデルさん 入りまーす
0.29.30
(スタッフたちの笑い声)
0.29.35
(佐々木)うん いいじゃない
0.29.37
あの これ… どこで流れるんですか?
0.29.40
(佐々木)大丈夫 大丈夫
0.29.42
業務用のDVDだから 誰も見やしないよ
0.29.53
ご納棺にあたり―
0.29.55
まず最初に 含み綿と湯灌を行います
0.30.00
湯灌には この世の疲れ 痛み 煩悩を洗い流し―
0.30.07
同時に あの世に帰るための―
0.30.10
逆さ産湯の意味があります
0.30.15
古くは たらいに湯を張り 洗い清めておりましたが―
0.30.19
今では衛生上の理由から―
0.30.22
このように 消毒液を浸した布で―
0.30.27
お体を―
0.30.32
お拭きしております
0.30.37
お着付けは 故人さまの尊厳を守るため―
0.30.41
ご遺族の皆さまに 故人さまの肌が見えないよう―
0.30.45
細心の注意を払って 行っております
0.30.58
(佐々木) お支度が整いましたら―
0.31.00
お化粧を施す前に お顔剃(そ)りをいたします
0.31.04
特に男性は―
0.31.06
顔の筋肉の収縮と 肌の乾燥のため―
0.31.10
ひげが伸びたように 見えてしまうので―
0.31.14
念入りに 行わせていただきます
0.31.21
ご遺体の肌は 思いのほか 傷つきやすいものでございます
0.31.25
指を当てただけで―
0.31.26
皮が剥がれてしまうことが ございます
0.31.31
それゆえ―
0.31.34
慎重に 丁寧に 行わせていただき…
0.31.38
(大悟のくしゃみ) (大悟)イテッ イテッ
0.31.40
(佐々木)あれ? (大悟)イテッ イテッ イテッ!
0.31.42
あれあれ? (大悟)イテ…
0.31.43
ああー イテッ イテッ!
0.31.45
あー イテッ イテ~! ああ ああ…
0.31.51
(佐々木)あれあれ~
0.31.54
イテッ! あいた あいた…
0.31.56
(佐々木) 大丈夫 大丈夫 大丈夫
0.31.59
たいしたことない たいしたことない
0.32.06
(美香)おかえり (大悟)ただいま
0.32.15
(大悟)何?
0.32.17
顔 どうしたの?
0.32.21
(大悟)ひげ剃ってたら 社長に押されてさ…
0.32.24
え? 会社で ひげ剃ってたの?
0.32.27
(大悟)うん
0.32.28
うちでも 電気カミソリしか 使わない人が?
0.32.32
(大悟) 社長命令だったんだから しかたなかったんだよ
0.32.36
大丈夫 大丈夫 たいしたことない
0.32.38
(美香)変な会社
0.32.40
(大悟)ホント 変 変…
0.32.41
(階段でつまずく音) (大悟)変な会社
0.32.43
(美香)フッ
0.32.51
(大悟)初仕事は突然 訪れた
0.32.58
あの~
0.33.00
僕は 何をすればいいでしょうか?
0.33.05
今日は…
0.33.08
今日は 見てるだけでいいや
0.33.10
はあ はい
0.33.13
(佐々木)しかし あれだなあ
0.33.16
悪い時 ぶつかっちまったな
0.33.18
え? どういう意味ですか?
0.33.22
あ いや
0.33.25
ま 行けば分かる
0.33.27
そんな 脅かさないでくださいよ
0.33.38
(佐々木)お待たせしました
0.33.40
(大中)おお ご苦労さん ご苦労さん!
0.33.41
ご遺体は?
0.33.44
(大中)1人暮らしの婆さんでの 死後2週間
0.33.48
結構 傷んでるさけって 気をつけての
0.33.51
ではの
0.33.56
誰ですか? (佐々木)フッ
0.33.58
葬儀屋 俺たちの雇い主
0.34.04
さあ じゃ やるか
0.34.09
(ハエの飛ぶ音)
0.34.13
(大悟)くさっ!
0.34.16
くっさ~
0.34.20
うわ~
0.34.32
うえっ
0.34.38
はい こっち (大悟)えっ?
0.34.43
うえ~っ!
0.34.48
(佐々木)ちょっと 手貸して
0.34.49
はい
0.34.55
(ハエの飛ぶ音)
0.35.01
(大悟)ううっ!
0.35.08
足 持って
0.35.09
(大悟)うっ!
0.35.12
足っ!
0.35.14
はい
0.35.22
見てるだけでいいって 言ったじゃないですか
0.35.24
(佐々木)そーっと 優しく
0.35.31
ちゃんと持て!
0.35.33
はいっ
0.35.38
(おう吐する声)
0.35.47
うえっ すいません すいません すいません…
0.35.50
(えずく声)
0.36.07
(佐々木)今日は もう帰っていいよ
0.36.14
最初にしては ちょっとな 刺激が強すぎた
0.36.36
(女子高生たちの話し声)
0.36.50
(女子高生)あのさ 今日なんか食べた?
0.36.53
(女子高生)食べてないよ (女子高生)なんか臭うんだけど
0.36.55
(女子高生)あっ あんたのマフラーでしょ
0.36.56
(女子高生)違うし
0.37.00
(においを嗅ぐ音)
0.37.04
(女子高生)ねえねえ (女子高生)何?
0.37.05
(女子高生)後ろの 黒い服の人 臭うって
0.37.08
(チャイム)
0.37.10
(車内アナウンス)次は南銀座(みなみぎんざ)…
0.37.11
(ブザー)
0.37.18
(大悟)ああ~ まだ あったんだ
0.37.42
(平田)そこさ 置いとけ
0.37.44
はい
0.37.49
300円だ
0.37.50
あ ありがとうございます
0.37.52
(平田)タオルは 100円だ
0.37.54
はい
0.38.28
(においを嗅ぐ音)
0.38.31
(山下(やました))今だったら 高く売れるんだって!
0.38.33
(戸の開く音)
0.38.35
(ツヤ子(こ))おいは 絶対 辞めないからの
0.38.37
ほれ 帰れ 帰れ!
0.38.39
(山下) おいは 母さんのこと思って…
0.38.41
(ツヤ子)そげな 役人みたいな言い方 やめれ
0.38.44
おいは おめえに心配されるほど 年いってねえ!
0.38.47
のう 詩織(しおり)ちゃん!
0.38.50
(詩織)おっきいお風呂 また入りさ来てもいい?
0.38.53
(ツヤ子)うん いいよ~
0.38.55
詩織ちゃんのためだば―
0.38.57
ばばちゃん ずーっと 頑張るからのう フフッ
0.39.02
大悟か?
0.39.04
山下…
0.39.05
いつ 帰ってきただや? 連絡ぐらいしろて
0.39.08
ああ いや ごめんごめん ちょっと バタバタしてての
0.39.12
あいや~ 小林さんとこの… 大ちゃん?
0.39.17
はい ご無沙汰してます
0.39.19
あ~ ホント 久しぶりだのう
0.39.24
なんか すごい仕事してるって 聞いたども
0.39.27
えっ!? あっ まあ…
0.39.31
(ツヤ子)何だっけ あの楽器… ほれ
0.39.33
(山下)チェロ バイオリンの オバケみたいなやつ
0.39.35
(ツヤ子)んだんだ チェロ!
0.39.37
あのおじちゃんの 東京で―
0.39.40
チェロって楽器やってる すごい人なんだよ
0.39.43
(詩織)ふ~ん
0.39.46
(ツヤ子)ウフフフ…
0.39.48
うちさも あんな出来のいい 息子がおったらの
0.39.52
母ちゃん
0.39.54
悪い 今 ちょっと もめてての 今度ゆっくりと
0.39.58
ああ またの
0.39.59
(ツヤ子) 今度 嫁さん連れてこいの
0.40.01
結婚してんだろ? (大悟)はい
0.40.03
(ツヤ子)このバカいねえ時は 静かなもんだ
0.40.06
(山下)バカを産んだのは どこのバカだや?
0.40.08
(ツヤ子)とにかく おいは ここを売る気はねえからのっ!
0.40.09
(大悟)めんごいな 何歳だ?
0.40.09
(ツヤ子)とにかく おいは ここを売る気はねえからのっ!
0.40.11
(ツヤ子)とにかく おいは ここを売る気はねえからのっ!
0.40.11
(詩織)4歳
0.40.11
(ツヤ子)とにかく おいは ここを売る気はねえからのっ!
0.40.11
(詩織)4歳
0.40.11
(平田) あ そうか! なるほど
0.40.11
(詩織)4歳
0.40.12
(平田) あ そうか! なるほど
0.40.15
(ツヤ子)詰んだか? (平田)詰んだ
0.40.17
ハハ 詰んだ詰んだ ハハハ…
0.40.48
なんかあった?
0.40.50
(大悟)ううん
0.40.53
(美香)じゃあ 食べよ
0.40.54
(大悟)よし
0.40.55
(美香)食べよ 食べよ
0.40.59
お隣のね 藤井(ふじい)さんにいただいたの (大悟)うん
0.41.03
今朝 つぶしたばっかりだから すっごく新鮮
0.41.06
お刺身でもいけるって
0.41.11
よし…
0.41.18
(美香)どうかな~ もうちょっとかな
0.41.19
(大悟)うっ…
0.41.19
(美香)どうかな~ もうちょっとかな
0.41.20
(美香)どうかな~ もうちょっとかな
0.41.23
(大悟)うっ ううっ
0.41.25
(美香)ん?
0.41.27
ちょっと…
0.41.29
(おう吐する声)
0.41.31
(美香)大丈夫?
0.41.37
ハァ ハァ…
0.41.39
(美香)えっ 大丈夫?
0.41.46
ん?
0.41.49
あ… どうした?
0.42.06
どうしたの?
0.42.13
ん?
0.42.26
(美香)大ちゃん なんか変だよ
0.42.34
ちょっと! ちょっと ヤダ 大ちゃん
0.42.39
ちょっ ねえ 恥ずかしい! (大悟)美香…
0.42.42
こんなとこで恥ずかしいよ…
0.42.51
大ちゃん?
0.43.02
(美香)ねえ ちょっと…
0.43.04
美香…
0.43.08
美香…
0.43.29
(大悟)一体 自分は―
0.43.32
何を 試されてるんだろう…
0.43.36
母を看取(みと)ってあげられなかった 罰なのか?
0.43.42
この先 どうなっていくんだろう?
0.43.49
そう思ったら なぜか チェロが弾きたくなった
0.43.56
記憶を巻き戻しながら ただ チェロが弾きたくなった
0.44.02
(大悟)はぁ~ 小さい…
0.44.18
(弦をはじく音)
0.44.57
(弦をはじく音)
0.45.06
(弦を調整する音)
0.45.25
(演奏)
0.46.17
(大悟の父親)ハハハッ それ~!
0.48.18
(大悟)ん? うん?
0.48.31
(大悟)ん?
0.48.43
(平田)ほいっ ほいっ ほいっ ほいっ…
0.48.50
鮭ですか?
0.48.53
(大悟)あ… ええ
0.48.59
あっ 今ちょうど あの 石のところに あそこ
0.49.04
(平田)おお 頑張れ 頑張れ~
0.49.10
おお~
0.49.14
(大悟)なんか切ないですよね 死ぬために のぼるなんて
0.49.19
どうせ死ぬなら 何も あんなに苦労しなくても
0.49.24
帰(けえ)りてえんでしょうのう
0.49.28
生まれ故郷に
0.49.31
ほいっ ほいっ ほいっ ほいっ…
0.49.56
(クラクション)
0.49.59
(大悟)あっ
0.50.04
(佐々木)飯食いに行こう 飯
0.50.08
(車のドアの開く音)
0.50.12
社長命令だ
0.50.17
偶然ですか?
0.50.19
ああ?
0.50.20
ここを通りかかったのは
0.50.26
運命だな
0.50.28
そんなこと…
0.50.32
君の天職だ この仕事は
0.50.38
いいかげんなこと 言わないでください!
0.50.50
(大中)すんません すんません 申し訳ねえのう
0.50.56
おお!
0.51.02
怒ってるよ 怒ってるよ
0.51.05
頼むよ 佐々木さん!
0.51.07
(佐々木)すいません
0.51.10
(喪主)おっせえ!
0.51.13
(喪主) 5分も過ぎてんだぞ 5分も!
0.51.14
(佐々木) 申し訳ありません
0.51.16
お前ら 死んだ人間で食ってんだろ
0.51.19
(義弟)義兄(にい)さん
0.51.21
早くしろ!
0.51.26
(佐々木) ホント申し訳ありません
0.54.27
(遺族たちのすすり泣き)
0.54.36
奥さまが お使いになっていた 口紅 ございますか?
0.54.45
え?
0.55.03
(大悟)冷たくなった人間を よみがえらせ―
0.55.07
永遠の美を授ける
0.55.10
それは 冷静であり 正確であり―
0.55.16
そして 何より 優しい愛情に満ちている
0.55.21
別れの場に立ち会い 故人を送る
0.55.22
(娘) お母さん! お母さん!
0.55.22
別れの場に立ち会い 故人を送る
0.55.24
(娘) お母さん! お母さん!
0.55.26
(大悟)静謐(せいひつ)で 全ての行いが とても美しいものに思えた
0.55.40
(佐々木) ありがとうございました
0.55.42
(泣き声)
0.55.51
では おフタを閉じさせて いただきます
0.55.54
(親戚の女性)なおみちゃん…
0.56.10
(喪主)なおみ…
0.56.15
(泣き声)
0.56.30
なおみ…
0.56.51
(喪主)あの
0.56.55
今日は 申し訳ありませんでした
0.56.58
(佐々木)いえ こちらの方こそ
0.57.01
あのこれ よかったら 持ってってください
0.57.05
(佐々木) ありがとうございます
0.57.08
あいつ…
0.57.11
今までで一番きれいでした
0.57.17
本当に ありがとうございました
0.57.55
(大悟)フフッ
0.57.59
(佐々木)ん?
0.58.01
(大悟)あ いや…
0.58.34
(戸の開く音)
0.58.36
いらっしゃい
0.58.40
こんばんは
0.58.43
(大悟)こんばんは
0.58.46
(ツヤ子)あいや~ まさか
0.58.49
はい うちの嫁です
0.58.52
(ツヤ子)あいや~
0.58.54
はじめまして
0.58.56
めんこいっ娘(こ) もらって
0.58.58
いやあ そんげなことねえてば
0.59.03
ゆっくり つかって 温まっていけの
0.59.07
はい ありがとうございます
0.59.13
(大悟)こんばんは
0.59.18
ああ どうも
0.59.21
いつも こちらへ?
0.59.23
もう 50年以上 通ってるでの
0.59.26
はあ~ では 会ってたかも
0.59.33
こういう熱い風呂も いいもんですの
0.59.36
ここのは 地下水くんで まきで沸かすからの
0.59.41
お湯 軟らかいのやの
0.59.43
だはで 熱くても チクチクはしねえ
0.59.48
なるほどのう
0.59.49
日本一の風呂屋だのう
0.59.53
ほう~ (平田)フフフ…
1.00.00
(客)ツヤ子さん せば またのう
1.00.02
(ツヤ子) ありがとう またのう
1.00.10
(美香)お手伝いしましょうか?
1.00.12
(ツヤ子)お客さんに 手伝ってもらったら バチ当たる
1.00.25
(美香)全部 お1人で?
1.00.27
(ツヤ子)ああ ずーっと前に じじちゃん 死んだからの
1.00.32
役所勤めの息子は―
1.00.34
“ここさ売ってマンション建てろ” って言うけど―
1.00.37
ここなくなったら 今のお客さん 困るから
1.00.40
私が元気なうちは
1.00.43
(美香)そんな まだまだ
1.00.46
支えてあげての
1.00.48
(美香)え?
1.00.51
大ちゃん 優しい子だからの
1.00.55
全部 自分で 引き受けてしまうのよ
1.00.58
両親が別れた時も―
1.01.01
母親の前では 絶対 泣かなかったの
1.01.05
男湯で… 1人になった時 泣くのよ
1.01.10
ちっちゃい体で 肩震わせて…
1.01.17
そういうとこあるから 分かってあげての
1.01.24
はい
1.01.31
今日の お湯は?
1.01.34
(平田)う~ん まあまあだの
1.01.37
もう~
1.01.38
(平田)お ええのう 似合っとるのう
1.01.41
エへへ ハハハ…
1.01.47
(美香) うわっ アハハ 真っ白~!
1.01.50
(大悟) 明日から冷えるのう 貸し
1.01.54
(美香)ああ ありがと
1.01.56
ね 一杯だけ飲んでかない?
1.01.58
(大悟)おう そうだ! いい店あんのやの
1.02.01
(美香)ホント? 行く行く!
1.02.03
(大悟)行ぐ行ぐ (美香)行ぐ行ぐ?
1.02.05
(大悟)行ご行ご (2人の笑い声)
1.02.07
(美香)行ご行ご
1.02.09
(ウイスキーのフタを開ける音)
1.02.24
(美香)ん~ (大悟)あ~
1.02.27
(美香)おいしい
1.02.28
(大悟)久しぶりだな こういうふうに飲むの
1.02.32
フフッ なんか演歌っぽい?
1.02.35
んだ~んだ~
1.02.37
(2人の笑い声)
1.02.47
(美香)お義母さん こんなの聴いてたんだ
1.02.50
全部 オヤジのでしょ
1.02.53
(美香)あ そっか
1.02.55
ここって最初は お義父(とう)さんの 喫茶店だったんだよね?
1.03.01
(大悟)思い出したくもない
1.03.03
っていうより 覚えてないんだよな オヤジの顔
1.03.07
会いたいって 思わない?
1.03.10
会いたくない
1.03.15
でも… もし会ったら…
1.03.20
会ったら?
1.03.24
ぶん殴る
1.03.36
(ピアノとチェロの演奏曲)
1.04.08
オヤジのお気に入りだ
1.04.20
(美香) フフッ 私 思うんだけど―
1.04.26
大ちゃんの お母さんって―
1.04.29
ずっと お父さんのこと 好きだったんじゃないかな
1.04.34
フッ まさか
1.04.38
でなきゃ レコード全部捨ててるって
1.04.44
こんなに きれいに 整理してないって
1.05.09
(風の音)
1.05.14
(階段を下りる音)
1.05.15
(上村)いい?
1.05.15
(階段を下りる音)
1.05.15
(上村)いい?
1.05.15
(大悟)はい どうぞ
1.05.15
(上村)いい?
1.05.16
(大悟)はい どうぞ
1.05.18
(上村)すぐ行ってほしいの
1.05.19
(大悟)えっ 今からですか?
1.05.22
(上村)そう 駅前の スターホテルで首吊りなのよ
1.05.26
(大悟)あっ しゃ… 社長は?
1.05.29
(上村)それがねえ 社長は 別件で出ちゃったばっかりなのよ
1.05.34
今日は1人でお願い いい?
1.05.38
分かりました はい
1.06.24
(美香)いってらっしゃい (大悟)いってきます
1.06.36
はぁ…
1.06.46
(大悟)おはようございます (上村)おはよう
1.06.48
ゆうべは ご苦労さま
1.06.51
警察の人 感心してたわよ 若いのにって
1.06.55
ああ もう 無我夢中でやりました
1.06.58
(上村)そう~
1.07.01
冷えるねえ 今日
1.07.03
(大悟)ええ
1.07.07
(上村)はい
1.07.08
(大悟)あっ ありがとうございます
1.07.10
あれ 目 真っ赤 眠れなかったんだ
1.07.12
(大悟)ええ ハハッ
1.07.14
この仕事 精神的に引きずるからね
1.07.22
上村さんは どうして この仕事 就いたんですか?
1.07.25
(上村)ん?
1.07.28
(大悟)いただきます
1.07.31
(上村)若いころに いろいろあってねえ
1.07.34
あっちに いられなくなったの
1.07.36
(大悟)ん?
1.07.38
(上村)帯広(おびひろ)
1.07.41
どの仕事も長続きしなくてね
1.07.45
たまたま 流れ着いたのが こっちのスナック
1.07.51
でもね そこのママさん 脳溢血(のういっけつ)で―
1.07.55
いきなり 死んじゃったの
1.08.01
で 社長が来てね
1.08.05
私ね そん時 納棺 初めて見たの
1.08.11
あー 私 死んだら―
1.08.15
この人に やってもらいたい って思った
1.08.19
なんかね 全然違うのね あの人
1.08.27
で ここ
1.08.33
(大悟)人の運命って 面白いですよねえ
1.08.36
どこで どうなるか 分かんない
1.08.40
(上村)そうねえ
1.08.43
(大悟)おいしいです
1.08.45
(上村)フフ…
1.08.52
(大悟)おお 山下
1.08.57
(理恵)友達?
1.08.59
(詩織)こんにちは! (大悟)こんにちは
1.09.01
挨拶とかしなくていい!
1.09.04
(理恵)あなた…
1.09.05
先行ってろ すぐ行くから
1.09.15
噂(うわさ)になってるぞ
1.09.18
何が?
1.09.21
どうでもいいんだども もっとマシな仕事さ就けや
1.09.30
行くぞ おい 行こ
1.09.47
(大悟)ただいま
1.09.53
あれ?
1.10.00
美香?
1.10.07
美香…
1.10.12
どうしたんだよ?
1.10.18
(佐々木)ご遺族の皆さまに 痛々しく見えないよう―
1.10.21
行わせていただいております
1.10.24
まれに 肛門にお詰めする 場合もあります
1.10.28
このように脱脂綿を丸め―
1.10.32
肛門の奥まで 押し込み―
1.10.37
体液の流出を防ぎます
1.10.45
(美香)何なの? これ
1.10.50
(大悟) 机の中 勝手に見たんだ?
1.10.52
そんな問題じゃないでしょう
1.10.56
これは たまたま モデルになっただけで…
1.10.59
仕事の内容も 全部 調べた
1.11.07
(大悟)だから… 何?
1.11.15
何で言ってくれなかったの?
1.11.17
言うと反対するだろ
1.11.18
当たり前でしょ こんな仕事してるなんて…
1.11.23
恥ずかしいと思わないの?
1.11.28
どうして恥ずかしいの?
1.11.30
死んだ人を毎日 触るから?
1.11.34
普通の仕事をしてほしいだけ
1.11.37
普通って何だよ?
1.11.40
誰でも必ず 死ぬだろ
1.11.43
俺だって死ぬし 君だって死ぬ
1.11.46
死そのものが普通なんだよ
1.11.48
理屈はいいから 今すぐ辞めて
1.11.53
お願い
1.12.02
私 今まで 何も言わなかったよね
1.12.08
大ちゃんが “チェロ辞めたい”って言った時も
1.12.11
“田舎に戻りたい”って 言った時も
1.12.15
笑って ついてきたじゃない
1.12.20
そりゃ… 悲しかったんだよ 本当は
1.12.28
でも…
1.12.32
あなたが 好きだから
1.12.38
だから―
1.12.41
今度だけは お願い
1.12.45
私の言うこと聞いて
1.12.58
嫌だって言ったら?
1.13.10
一生の仕事にできるの?
1.13.24
(ため息)
1.13.27
実家に帰る
1.13.30
仕事辞めたら 迎えに来て
1.13.31
(大悟)美香!
1.13.32
触らないで!
1.13.34
汚らわしい!
1.13.50
(階段を下りる音)
1.14.01
(電車の警笛)
1.14.24
(母親)違う
1.14.27
はい?
1.14.29
(母親)うちの子は こんなんでねえ
1.14.36
髪の色も違うし
1.14.40
全部 違う!
1.14.42
(母親)ミユキは ああなのよ!
1.14.46
あんた 何してんの!
1.14.50
全然 違う
1.14.54
やり直して
1.14.57
はい
1.14.59
(父親)今さら 何言ってんだ
1.15.03
おめえが ちゃんと育てねえから―
1.15.06
こげなことに なってしまったんだろうや!
1.15.09
(泣き声)
1.15.13
(少年)そういう言い方は ねえんじゃないんですか
1.15.15
何だと!?
1.15.17
(少年)ミユキのこと ちゃんと見てなかったのは―
1.15.20
あんたも 同じじゃないですか!
1.15.22
(父親)おめえ 何さまだ!
1.15.24
おめえらが バイクでひっぱり回してー!
1.15.27
おめえだけ 生き残って 恥ずかしくねえのか!
1.15.31
(親戚の男性)やめれ! (父親)うわーっ!
1.15.32
(親戚の男性)やめれ! やめれ やめれ!
1.15.34
(父親)うわーっ!
1.15.36
(親戚の男性)おめえら!
1.15.39
帰れ!
1.15.42
おめえらのせいで ミユキが 死んだのは 違わねえだろや
1.15.48
おめえがた 償えんのか?
1.15.52
あ?
1.15.55
一生 あの人みてえな 仕事をして 償うか?
1.16.01
あ?
1.16.03
(少年)すいません
1.16.08
すいませんっ!
1.16.09
(両親の泣き声)
1.16.13
社長 悲しむだろうなあ
1.16.18
(大悟)え?
1.16.19
いや あなたのこと 気に入ってたから
1.16.22
(大悟)そうなんですか? (上村)そうよ
1.16.24
創業以来 初めての社員だもん
1.16.28
その割には 面接とか いいかげんでしたよね
1.16.30
いつも直感で動くの あの人は
1.16.33
あなたを見た瞬間 ピンと来たみたいよ
1.16.38
そんなこと言われても…
1.16.42
悪いけど 辞めたいなら 直接 社長に言って
1.16.46
今 上にいるから
1.17.15
失礼します
1.17.20
(佐々木)入って
1.17.21
はい
1.17.36
(佐々木)飯 どうしてる?
1.17.39
え?
1.17.42
(佐々木)かみさん まだ戻ってないんだろ?
1.17.45
は はい
1.17.49
(佐々木)食ってけよ
1.17.51
俺の方がうまいぞ たぶん
1.18.00
さ やろっか
1.18.08
何ですか? これは
1.18.09
(佐々木)フグの白子
1.18.12
炙(あぶ)って 塩で食うと うまいんだ
1.18.38
女房だ
1.18.40
9年前にな 死なれちまった
1.18.51
夫婦ってのは いずれ 死に別れるんだが―
1.18.56
先立たれると つらい
1.19.05
きれいにして送り出した
1.19.16
俺の第1号だ
1.19.23
それ以来 この仕事してる
1.19.29
これだってさ
1.19.36
う~ん…
1.19.39
これだって ご遺体だよ
1.19.47
生き物は生き物を食って 生きてる だろ?
1.19.53
こいつら別だけど
1.19.58
ああ~
1.20.02
死ぬ気になれなきゃ 食うしかない
1.20.06
食うんなら うまい方がいい
1.20.27
うまいだろ
1.20.29
うまいっすね
1.20.31
うまいんだよなあ 困ったことに
1.20.50
(吹雪の音)
1.20.54
(大悟) 東京から山形の田舎に戻って もうすぐ2か月
1.20.58
思えば 何とも おぼつかない 毎日を生きてきた
1.21.07
僕は 本当に この仕事で やっていけるのだろうか
1.21.19
やってみるかい?
1.21.24
はい
1.22.07
(泣き声)
1.22.34
(大悟)お頭の方から ゆっくりと お願いいたします
1.22.50
留男
1.22.54
(泣き声)
1.23.04
(佐々木)失礼いたします
1.23.10
(父親) ありがとうございました
1.23.15
留男が ああなってから いつも けんかばっかりで
1.23.22
あいつの顔 まともに 見たことありませんでした
1.23.26
だけんど ほほ笑んでる顔見て 思い出したんです
1.23.31
ああ おいの子だのう
1.23.36
女子の格好してたって―
1.23.38
やっぱ あいつは おいの子だのうって…
1.23.46
(父親の泣き声)
1.23.48
本当に ありがとうございました
1.24.02
(吹雪の音)
1.24.19
(上村)おいしい
1.24.20
(息を吹きかける音)
1.24.40
(大悟)うまいですか?
1.24.44
困ったことに
1.24.50
あ チェロ持ってきた?
1.24.55
(上村)すてき 聴きたい! 聴きたい!
1.24.57
(大悟)じゃあ ちょっとだけ
1.25.04
生のチェロ聴くの初めてだ
1.25.07
オーケストラにも 入ってたんでしょう?
1.25.09
(大悟)ああ でも すぐに潰れました
1.25.11
(上村)いつからやってんの?
1.25.14
(大悟)幼稚園の時から
1.25.15
(上村)へえ~ そんな時から
1.25.17
(大悟)これも そのころの 子供用なんですけど
1.25.21
オヤジから 無理矢理 習わされたんです
1.25.24
(佐々木) しゃれたオヤジだね
1.25.25
(大悟) いや 最悪なやつですよ
1.25.27
あの 小さな喫茶店を やってたんですけど―
1.25.30
そこのウエートレスと 失踪して それっきり…
1.25.32
ホント 最悪なオヤジです
1.25.34
(上村) 今 どうしてんだろうね
1.25.37
(大悟)さあ もう 死んでるんじゃないですか
1.25.41
(弦を調整する音)
1.25.44
さ 何をやりましょうか?
1.25.48
そうだな せっかくだから―
1.25.50
クリスマスっぽい やつがいいな
1.25.52
(上村)うん
1.25.57
あのー 宗派とか 問題ないですかね?
1.26.01
大丈夫 大丈夫
1.26.02
うちは仏教 キリスト イスラム ヒンズー
1.26.05
全部 対応してるから
1.26.07
フフッ
1.26.08
フフフ…
1.26.10
それじゃ 聖なる夜のために
1.26.20
(「アヴェ・アヴェマリア」の演奏)
1.27.46
(上村) はい NKエージェントです
1.27.48
いつもお世話になっております
1.27.52
明日ですね
1.27.54
葬家のお名前は…
1.27.55
それでは これより 旅のお支度をさせていただきます
1.27.59
指の方にかけていただいて はい そうです
1.28.02
(孫)あの
1.28.06
(孫)おばあちゃんが前に―
1.28.07
“ルーズソックス はきたい”って
1.28.09
ああ… はい
1.28.14
(大悟)ふくらみの方は よろしくお願いします
1.28.16
(孫)はい
1.28.20
(孫)おばあちゃん バイバイ
1.28.23
(親戚の男性)おばあちゃん ご苦労さま
1.28.33
(神父)主イエス・イエスキリストの 御名によって―
1.28.35
お祈りいたします アーメン
1.28.39
(一同)アーメン
1.29.13
(白鳥の鳴き声)
1.29.23
(上村)社長も年とったわあ
1.30.34
(キスの音)
1.30.38
(キスの音)
1.30.39
(娘の笑い声)
1.30.45
(妻)パパ ありがとう
1.30.49
(妻たちの泣き笑いの声)
1.31.50
美香…
1.31.55
(美香)掃除してないの?
1.31.59
たまに
1.32.00
(美香)嘘(うそ) 一度もしてない
1.32.05
2回は やったぜ
1.32.09
“たまに”じゃないじゃない
1.32.15
やっぱり私がいないとダメね
1.32.20
(大悟)フッ…
1.32.24
報告もあるし
1.32.27
何?
1.32.32
赤ちゃんができた
1.32.34
えっ!?
1.32.37
すごい!
1.32.39
俺 父親になるわけ?
1.32.42
えっ…
1.32.44
ヘヘヘッ…
1.32.50
(美香)だから もう 中途半端な生き方はやめて
1.32.58
自分の仕事 子供に堂々と言える?
1.33.05
きっと イジメの対象にもなる
1.33.10
お金なんていらないから 3人で仲良く暮らそう
1.33.16
(大悟)あ…
1.33.20
(携帯電話の着信音)
1.33.22
(大悟)ごめん
1.33.27
はい もしもし あ どうも
1.33.30
えっ 今からですか?
1.33.34
え?
1.33.38
分かりました すぐに行きます
1.33.46
こんな時に 仕事行くの?
1.33.51
銭湯のおばちゃん…
1.33.54
亡くなった
1.34.25
妻の美香です
1.34.36
まきを運んでる時に倒れて―
1.34.40
そのまま亡くなったらしい
1.34.44
最後の最後まで 働いてたんですね
1.34.47
しかし この銭湯なくなっと…
1.34.51
はぁ… 寂しくなんのう
1.37.56
それでは 皆さまで お顔を拭いていただいて―
1.37.59
お1人ずつ お別れを お願いいたします
1.38.47
母ちゃん
1.38.49
(山下のすすり泣き)
1.39.21
お義母さん…
1.39.25
(詩織と理恵の泣き声)
1.40.31
(山下)詩織…
1.40.35
ばあば お別れだよ
1.40.39
(理恵)お義母さん…
1.40.53
お疲れさまでした
1.41.08
こちらに いらしたんですか?
1.41.17
(平田)それでは皆さま 合掌で お送りください
1.41.35
お窓を閉めさせていただきます
1.41.54
ありがとの
1.41.57
また会おうの
1.42.30
(扉の閉まる音)
1.42.53
母ちゃんの最期 見てもいいかの?
1.43.02
ありがとうございます
1.43.10
たぶん人間 何か 予感がするんでしょうのう
1.43.19
去年の暮れ 2人で クリスマスやったのよ
1.43.27
まさか この年になって―
1.43.29
そげなことするなんて 思ってねくて
1.43.32
でも―
1.43.34
“どうしてもやりてえ” って言うから―
1.43.38
ちっちぇえケーキ買って ロウソクさ 火つけて
1.43.44
2人で お祝いしました
1.43.49
そしたら 突然―
1.43.54
“一緒に銭湯やってくれ”って 頼まれましての
1.44.02
つまりは こういうことやったのやの
1.44.07
私 燃やすのは 上手ですからの ハハハ…
1.44.21
長(なげ)えこと ここさいっと つくづく思うのやの
1.44.29
死は 門だなって
1.44.36
死ぬっていうことは 終わりっていうことでなくて―
1.44.42
そこをくぐり抜けて 次へ向かう…
1.44.49
まさに 門です
1.44.55
私は 門番として―
1.45.00
ここで たくさんの人を 送ってきた
1.45.08
“いってらっしゃい”
1.45.11
“また会おうの”って 言いながら
1.45.38
(山下の泣き声)
1.45.43
母ちゃん…
1.45.47
母ちゃん ごめんの
1.45.53
母ちゃん ごめんの…
1.46.01
ごめんの ごめんの
1.46.07
母ちゃん
1.46.13
母ちゃん ごめんの
1.46.18
(白鳥の鳴き声)
1.46.48
何してるの?
1.46.51
(大悟)よし これだ
1.47.04
(大悟)はい
1.47.07
何?
1.47.12
石文
1.47.13
いしぶみ?
1.47.16
(大悟)昔さ…
1.47.18
人間が文字を知らなかったくらいの 大昔ね
1.47.22
自分の気持ちに 似た石を探して―
1.47.24
相手に贈ったんだって
1.47.27
もらった方は その石の感触や重さから―
1.47.30
相手の心を読み解く
1.47.32
たとえば ツルツルの時は 心の平穏を想像し―
1.47.38
ゴツゴツの時は 相手のことを心配したりね
1.47.59
ありがと
1.48.01
何を感じた?
1.48.04
内緒
1.48.10
すてきな話
1.48.12
誰から聞いたの?
1.48.16
オヤジ
1.48.20
もしかして あの大きな石も?
1.48.25
そう オヤジからもらった
1.48.31
(美香)知らなかった
1.48.33
“毎年 石文を贈り合おうな” って言ってたのに―
1.48.37
結局 あれ1回だけ
1.48.39
やっぱり ひどいオヤジだ
1.48.53
(ウグイスの鳴き声)
1.48.56
(「ブラームスの子守歌」の演奏)
1.49.08
(美香)胎教のために 毎日 弾いてくれる?
1.49.11
(大悟)うん
1.49.27
(美香) はあ~ いいお天気だね~
1.49.33
(バイクのエンジン音)
1.49.40
(ウグイスの鳴き声)
1.49.44
(配達員)こんにちは
1.49.47
こちら 小林さんのお宅ですかの?
1.49.49
(美香)はい
1.49.51
和子(かずこ)さん宛の電報です
1.49.54
(美香)え?
1.49.55
え… あー いらっしゃいませんか? 和子さん
1.49.59
あ… いえ 義母(はは)は 2年前に亡くなりましたけど
1.50.05
(配達員) えー? あー そうですか…
1.50.09
ちょっと すいません (配達員)ああ… 困ります
1.50.30
(ドアの開く音)
1.50.31
(大悟) 戻りました~ すいません
1.50.34
(上村)大悟君 携帯忘れたでしょ?
1.50.36
(大悟)はい? あ 家だ すいません
1.50.44
(上村) お父さん 亡くなったみたい
1.50.46
(大悟)誰の?
1.50.48
(上村)あなたの
1.50.53
(大悟)どういうこと… ですか?
1.50.56
それで 由良浜(ゆらはま)漁協にかけたら 教えてくれたの
1.51.02
お義父さんの遺品の中に うちの住所があったんだって
1.51.08
(大悟)でも 今さら 父親って言われても
1.51.11
30年以上も会ってないんだぜ
1.51.14
それに 一緒に逃げた相手に 面倒 見てもらえばいいんだよ
1.51.18
ずっと お独りだったそうよ
1.51.25
明日の朝 火葬するからって
1.51.28
お義父さんのご遺体は そこの集会所にあるみたい
1.51.40
とにかく 戸籍からは とっくに外れてるし
1.51.44
書類にもサインできないって 電話しといて
1.51.46
お願いします ホントに
1.51.47
(美香)大ちゃん
1.51.53
(上村)行ってあげて
1.51.55
(大悟) ホント 大丈夫ですから
1.51.57
(上村) お願い お願いします
1.52.05
あの…
1.52.08
私もね―
1.52.12
帯広に捨ててきたの 息子を
1.52.17
6歳だった
1.52.23
好きな人ができてね
1.52.26
“ママー ママー”って―
1.52.30
泣き叫ぶ息子の―
1.52.34
小さい手 振り払って 家 飛び出した
1.52.49
息子さんとは?
1.52.54
会いたいに決まってるけど 会えない
1.52.59
どうして?
1.53.02
会いたかったら 会いに行けばいいじゃないですか
1.53.11
フゥ…
1.53.17
子供を捨てた親って みんな そうなんですか?
1.53.24
だとしたら無責任すぎるよ!
1.53.40
お願い 行ってあげて!
1.53.42
最期の姿 見てあげてよ
1.53.46
ね
1.54.02
(美香)大ちゃん
1.54.44
社長
1.55.03
(佐々木)おい
1.55.08
好きなの持ってけ
1.55.16
大丈夫
1.55.41
(組合員)今朝 来てみたら 突然 死んでたがや
1.55.45
びっくりしてのう
1.55.48
どっから流れてきたんだがの
1.55.51
独りで この街さ来てのう
1.55.54
一生懸命 港の仕事 手伝ってくれたもんで―
1.55.59
ここの番屋を 住居代わりに 使ってもらってたがや
1.56.04
(大悟)そうですか
1.56.10
(組合員)無口で な~んも言わねえ人だっけのう
1.56.16
(組合員)いやあ よかった 身内の人が来てくれて
1.56.26
もうすぐ 葬儀屋の人が来っからの
1.56.29
はい
1.56.53
あなたの―
1.56.56
お父さん
1.57.02
(大悟)情けないけど…
1.57.06
覚えてない
1.57.11
オヤジの顔
1.57.14
こんな顔してたって
1.57.18
見ても 分からないんだ
1.57.40
何だったんだろう この人の人生って
1.57.47
70数年 生きて―
1.57.50
遺したものが 段ボール1箱だけ
1.57.55
(戸の開く音)
1.57.57
(組合員)ここだ
1.58.00
(組合員)よろしくの (業者)ええ
1.58.02
(業者)お話中 失礼します
1.58.05
(業者)失礼します
1.58.08
えいっ… よいしょ えいっ
1.58.12
(業者) そろそろ よろしいですか?
1.58.23
(業者)ほいっ
1.58.27
あいや~っ
1.58.32
あ このまんま入れるかの
1.58.33
(業者)はい
1.58.36
あの
1.58.37
はい?
1.58.39
僕に やらせてもらえませんか?
1.58.41
いやいや 私たちがやりますから
1.58.44
棺に納めた後 お水を飲ませてあげてください
1.58.48
せえの
1.58.53
何すんだ!
1.58.57
夫は…
1.58.59
納棺師なんです
1.59.43
(大悟)ん?
2.02.02
(ひげを剃る音)
2.02.43
(大悟のすすり泣き)
2.04.09
オヤジ
2.04.16
オヤジだ
2.04.22
(泣き声)
2.04.34
オヤジ
2.06.09
(2人)フッ…
2.06.19
♪~
2.10.28
~♪