00:00:05
(リヒァルト)元気そうじゃないか
00:00:07
(リヒァルトの元妻)ええ
00:00:09
(リヒァルト)
仕事は? 順調かい?
00:00:12
(リヒァルトの元妻)ええ
00:00:13
(リヒァルト)そりゃよかった
00:00:17
ローゼマリーも 元気かい?
00:00:21
(リヒァルトの元妻)元気よ
お友達も いっぱいできて…
00:00:24
そうか そりゃよかった
00:00:29
ああ… よかった
00:00:31
学校にも もう慣れて…
00:00:33
(リヒァルトの元妻)ごめんなさい
(リヒァルト)ん?
00:00:35
(リヒァルトの元妻)悪いけど 私
そろそろ行かないと…
00:00:39
ローゼマリーの写真 持ってきたわ
00:00:44
会わせてくれないかな
00:00:49
あさってあたり どうだい?
この店で…
00:00:53
(リヒァルトの元妻)フゥ…
00:00:59
酒も ぴったりやめた
00:01:01
生活も元どおり…
00:01:03
いや こんなに まともに
暮らしてるのは初めてかもしれない
00:01:08
なくしたものの大きさが
分かったんだ
00:01:10
なくしたものの大きさが
分かったんだ
00:01:10
{\an8}(立ち上がる音)
00:01:14
会うかどうかは
彼女自身に決めさせるわ
00:01:18
あ… ああ そうだな
00:01:21
(リヒァルトの元妻)
それじゃあ 私 行かなくちゃ
00:01:23
(リヒァルト)んっ ああ…
00:01:30
(ドアベルの音)
00:01:42
(男性)フフフッ
00:01:44
(2人の笑い声)
00:01:49
(酒を飲む音)
00:01:55
(飲む音)
00:02:05
(店員)はい
00:02:09
コーヒーの おかわり
00:02:11
♪~
00:03:27
~♪
00:03:41
(リヒァルト)先生 こいつは
どんな男だと思います?
00:03:44
(ライヒワイン)おい リヒァルト
00:03:46
は?
00:03:47
(ライヒワイン)あんた ここに
何しに来てると思ってるんだ
00:03:51
(ライヒワイン)
私のカウンセリングを受けに
00:03:53
来てるんだぞ
00:03:54
私は占い師じゃないと
言ってるだろうが
00:03:58
(リヒァルト)クライエントとの
長年にわたる面接の成果でしょ?
00:04:02
(ライヒワイン)フン…
何者だ? その青年
00:04:05
(リヒァルト)第1発見者ですよ
00:04:08
この男が 例のファーレンの死体を
最初に見つけたんです
00:04:12
ただの友人ということに
なってますがね
00:04:15
なあ リヒァルト
00:04:16
(リヒァルト)は?
00:04:17
仕事 仕事もいいが
少しリラックスする時間も必要だぞ
00:04:22
のんびりやってますよ
00:04:24
(ライヒワイン)なら いいがな
00:04:26
実はね 先生
00:04:28
何だ?
00:04:29
娘に… 会えるかも
しれないんですよ
00:04:34
ほう… そりゃ楽しみだな
00:04:37
ええ
00:04:38
(ライヒワイン)ただし…
(リヒァルト)は?
00:04:40
(ライヒワイン)会っても
失ったものは取り戻せない
00:04:43
それだけは肝に銘じておくんだぞ
00:04:46
(リヒァルト)ええ
00:04:47
どんなことがあっても
酒にだけは手を出すな いいな?
00:04:53
ご心配なく
00:04:54
(ライヒワイン)
これから また仕事かね?
00:04:56
(リヒァルト)ええ
00:04:57
どうだね
00:04:59
もう そろそろ
君が警察を追われた あの事件に
00:05:03
真正面から向き合わないかね
00:05:05
ええ もちろんです
00:05:08
彼は17歳 連続殺人犯
00:05:14
私は彼を撃ち殺しました
00:05:16
勤務中 酒に酔っ払ってね
00:05:20
結構だ そこから
逃げ出そうとしても無理だ
00:05:24
その事実を消すことはできない
ただ大切なのは…
00:05:29
“そこから前へ進むことだ”
…でしょ?
00:05:33
よろしい
なかなか いい生徒だ
00:05:36
(リヒァルト)100点満点ですか?
00:05:38
バカ言え 私は そう簡単に
満点なんか出さん
00:05:42
大体 100点満点の人間なんてのは
つまらんもんだ
00:05:47
(リヒァルト)フフフフッ…
00:05:55
(女の子たちの笑い声)
00:06:00
(街の雑踏)
00:06:14
(パトカーのサイレン)
00:06:34
(銃声)
00:06:46
ハァ ハァ ハァ…
00:06:54
うっ… ハァ
00:06:58
ハァ…
00:07:01
ああっ
00:07:13
(のどが鳴る音)
00:07:19
(録音ボタンを押す音)
(リヒァルト)カール・カールノイマン
00:07:22
(リヒァルト)ミュンヘン大学
経済学部 経営学科の学生
00:07:26
彼はファーレンと同じく
00:07:28
例の娼婦(しょうふ)に シューバルトの
息子であると名乗り出ている
00:07:32
これが事実かどうかは
まだ判明していない
00:07:36
ただし この青年は事件の何か…
00:07:38
(ノック)
00:07:41
(リヒァルト)はい
00:07:43
(ラックヴィッツ)リヒァルトさん
掃除 済んだので 私はこれで
00:07:47
ああ いつも ご苦労さま
00:07:49
苦労なんか ありゃしないよ
00:07:52
男の一人暮らしで
こんなに きれいにしてるなんて
00:07:55
なかなか できることじゃないよ
00:07:57
いやあ 以前はそりゃあ
ひどいもんだったんですよ
00:08:02
(ラックヴィッツ)娘さんの写真
00:08:04
新しいのが増えたねえ
00:08:06
ええ もうじき会えるんですよ
00:08:09
あらま そりゃあ よかったね!
娘さん 喜ぶよ
00:08:14
(リヒァルト)そうでしょうか…
00:08:15
(ラックヴィッツ)当たり前だよ
00:08:17
親に会って うれしくない娘なんて
いやしないよ
00:08:27
(カール)へえ そりゃよかった
00:08:29
それで レポートのほうは
ちゃんと提出できたのかい?
00:08:34
(リヒァルト)カール・カールノイマン…
00:08:36
なぜ お前はシューバルト本人に
息子だと名乗り出ない?
00:08:43
お前も詐欺師なのか?
それとも本物なのか…
00:08:47
もし本当に
シューバルトの息子なら…
00:08:52
親は いつでも子供に
会いたいもんなんだぜ
00:09:13
(ドアベルの音)
00:09:28
ごめんなさい あの子…
会いたくないって
00:09:37
ああ… いや いいんだ
00:09:41
ごめんなさい
私も 時間なくて…
00:09:45
(リヒァルト)ああ… あっ そう
いいんだ 気にしなくて
00:09:51
(リヒァルトの元妻)それじゃ
00:09:52
(リヒァルト)ああ
00:09:59
(ドアベルの音)
00:10:01
(ドアの閉まる音)
00:10:03
(グラスの音)
00:10:11
(酒を飲む音)
00:10:19
(飲む音)
00:10:26
(店員)はい
00:10:31
何か ご注文ですか?
00:10:34
ウ… ウイスキーを
00:10:36
(店員)はい
00:10:48
(店員)はい どうぞ
00:11:09
(氷の音)
00:11:11
(ドアベルの音)
00:11:13
(店員)あら? あの!
00:11:37
(カール)
僕 父さんのところに行くよ!
00:11:39
(マルゴット)今はダメ!
00:11:40
大きくなったら…
00:11:42
あなたが大人になっても
会いたかったら
00:11:44
ただし 何にも欲しがっちゃダメ
00:11:48
冷たくされても恨んじゃダメ
00:11:50
母さんは 恨んでないから
00:11:54
これ 持っていきなさい
00:11:56
父さんが 生まれてくるあなたに
くれたものよ
00:12:11
(カール)“めでる人なく
ラーレースの水仙は咲き誇り”
00:12:15
“心する人なく
ピエリアの木々は ざわめく”
00:12:20
“ああ 名もなき人の
歩みし跡の血のわだちよ”
00:12:24
(シューバルト)すばらしい
00:12:26
は?
00:12:28
ノイマン君 君は実に
すばらしい読み手になった
00:12:32
あ… ありがとうございます
00:12:35
(シューバルト)この短期間に
それほどラテン語が上達するとは
00:12:39
大したものだ
00:12:41
(カール)
実は 教えてもらってるんです
00:12:43
おお それは優秀な教師だ
00:12:47
一体 誰だね?
00:12:49
ヨハン… ヨハン・ヨハンリーベルトです
00:12:54
ヨハンか 彼は完璧だ
00:12:57
はい…
00:12:59
(シューバルト)
ラテン語だけではない
00:13:00
え?
00:13:01
(シューバルト)法学も経済学も…
00:13:04
いや 全てのことに
完成された哲学を持っている
00:13:09
美しいまでに完成された青年だよ
00:13:16
あっ あの シューバルトさん
00:13:20
彼のような青年が…
00:13:23
彼が 実の息子だとしたら
どうですか?
00:13:38
(カール)笑ったんだ
00:13:41
あのシューバルトが笑ったんだよ
00:13:45
どうやら 彼にとって君が
息子として ふさわしいらしいよ
00:13:50
正直言って 嫉妬したよ
00:13:53
僕より君のほうが優れているのは
明らかなのに
00:13:56
嫉妬している自分が嫌になったよ
00:14:01
(ヨハン)名乗り出てみないか?
00:14:02
え?
00:14:05
(ヨハン)シューバルトに
00:14:06
君が本当の息子だって
名乗り出るのさ
00:14:09
よしてくれ!
00:14:11
僕は はなから
そんなつもりはないと言ってるだろ
00:14:14
もし名乗り出たとしても
彼は信じやしない
00:14:17
それどころか
00:14:19
彼の財産に群がるハイエナの中の
1匹くらいにしか見ないだろう
00:14:24
そんなのは ごめんだ
00:14:26
母が どんな人生を送って
死んでいったか
00:14:29
僕が どんな思いで
ここまで生きてきたのか
00:14:32
それを知りもしないで
00:14:34
彼にそんなふうに思われるなんて
ごめんだ!
00:14:41
(ヨハン)
だから名乗り出るんじゃないか
00:14:43
(カール)えっ
00:14:45
本当のことを
全て彼に分かってもらうんだ
00:14:49
彼は何も信じやしない
00:14:51
信じざるをえない何かがあるはずさ
00:14:54
はっ… え?
00:14:57
君が本当の息子であると
彼が信じる何かが…
00:15:03
な… ないよ そんなもの
00:15:07
(ヨハン)思い出してごらんよ
あるはずさ
00:15:10
ないって言ってるだろ?
僕は名乗り出るつもりはないんだ
00:15:15
じゃあ なぜ 君は僕に こうして
ラテン語を習ってるんだい?
00:15:19
はっ…
00:15:21
彼に喜んでもらいたいから?
00:15:25
彼に気に入ってもらいたいから?
00:15:29
(カール)フゥ…
00:15:31
辞めようと思うんだ
00:15:33
彼のところで朗読するアルバイト
00:15:36
もう… 辞めるよ
00:15:42
心配してくれて ありがとう
00:15:45
もういいんだ
00:15:51
ヨハン 君にだけ言うよ
00:15:55
実は…
00:15:57
証明するもの 持ってるんだ
00:16:01
(ヨハン)何を?
00:16:02
でも そんなものを突き付けて
00:16:06
彼に実の息子だと迫る気はない
00:16:09
来週 里親が会いに来るんだ
00:16:13
決心したんだ その時 僕は…
00:16:18
(ヨハン)そうか
00:16:19
その決心が揺るがないように
00:16:22
その証拠品は
00:16:24
僕が預かっていたほうが
いいかもしれないね
00:16:30
(リントナー)
元気そうで安心したよ
00:16:33
なあ 母さん
00:16:34
(リントナーの妻)ええ
ちゃんと食べてるかしらって
00:16:37
心配してたのよ
00:16:39
いやあ 外食ばかりだと
逆に太るから 気を付けてるよ
00:16:43
(リントナー)
母さんの食事も太るぞ
00:16:46
アハハハッ おいしいからね
00:16:48
大学はどうだ?
友達はできたか?
00:16:52
うん 何でも気兼ねなく話せる
いい友達がね
00:16:56
そうか それが一番だ
00:16:58
うまくいってるって
カールの顔 見れば分かるわ
00:17:04
こうして勉強できること
感謝してます
00:17:07
(リントナー)
おいおい 何だい 改まって
00:17:11
(カール)今まで 里親のもとを
転々としてきたけど
00:17:14
お二人は
本当に僕によくしてくれて
00:17:17
お前が とても
すばらしい子だからだよ
00:17:20
そうよ カール
00:17:23
ホントにありがとう
リントナーさん
00:17:28
もう リントナーさんというのは
やめにしないか?
00:17:34
私たちの養子になってくれる話
受けてくれるかな?
00:17:40
お前 大学に入って しばらくの間
待ってくれと言っていたが
00:17:45
もうそろそろ
いいんじゃないかと思って
00:17:50
私たちは お前を信じてる
00:17:52
お前も 私たちを
信じてくれるだろう?
00:17:56
もちろんです
00:17:57
お前の本当のお父さん お母さんは
どこかで生きているかもしれない
00:18:04
私たちは どうやっても
本物になれないかもしれないが…
00:18:08
そんなことありません
00:18:10
(2人)あっ
00:18:12
お二人は…
本当の父さんと母さんですから
00:18:17
(2人)あっ…
00:18:19
フフッ
00:18:21
あ… あなた…
00:18:26
乾杯だ
今日は特別 高いワインだ
00:18:29
はい
00:18:31
(リントナー)ああ ちょっと君
ワインのメニューをくれないか
00:18:34
今日は特別なんだ
00:18:40
(電話の着信音)
00:18:49
はい もしもし
00:18:52
(シューバルト)
ノイマン君か 私だ
00:18:55
はっ
00:18:57
シューバルトさん
00:18:59
(シューバルト)君がアルバイトを
辞めるという話を伝え聞いたよ
00:19:03
あっ はい…
00:19:06
(シューバルト)残念だよ
00:19:08
勝手 言って
申し訳ありません
00:19:11
(シューバルト)よく頑張ったな
00:19:13
よく あそこまで
ラテン語が上達した
00:19:17
ありがとうございます
00:19:19
(シューバルト)本当に残念だ
本当に寂しくなるよ
00:19:25
最後にもう一度 よかったら
何か読んで聞かせてくれないか
00:19:31
はい 喜んで
00:19:35
「アイオリスからレムノスへ」
第3節でいいですか?
00:19:39
(シューバルト)ああ いいな
00:19:43
(カール)“かの神秘の海原は”
00:19:45
“ポイポス神にすら
死を望んでいるのではないか”
00:19:49
“ケルペロスのごとき 息子ども
娘どもの死を願うより他に”
00:19:53
“何の楽しみがあろう”
00:19:56
“さあ 進めとゼウスはささやく”
00:19:59
“進め 進めと”
00:20:02
“暗き神々の神殿で舞い踊れ”
00:20:06
“海や大地や天界に住む⸺”
00:20:10
“ユーノーの神々よ”
00:20:15
“パルテニオンの頂より”
00:20:18
“カムパニアの禁断の…
リンゴを奪い…”
00:20:23
“全て ここに来たりて
我が心を… 求めるを…”
00:20:29
(カールの泣き声)
00:20:32
(カール)“我が心を…”
00:20:35
(通話の切れる音)
(カールの泣き声)
00:20:46
(車いすの音)
00:20:48
はっ
00:20:53
はっ… あ…
00:21:05
シューバルトさん 今の電話は…
00:21:11
見事だ
00:21:13
かつて聞いた中で
最も心地よい朗読だった
00:21:18
なぜ今まで隠していた?
00:21:22
そ… それは…
00:21:24
(シューバルト)確かに これは
00:21:25
私が 君の母 マルゴットに渡した
ウサギの足だ
00:21:31
生まれてくる君に
幸運をもたらす お守りだ
00:21:36
君のものだ カール…
00:21:39
(カール)うっ…
00:21:42
つらい思いをさせた
00:21:45
あ… ああ…
00:21:49
お父さん!
00:21:51
(カールの泣き声)
00:21:53
(シューバルト)息子よ…
00:22:04
(シューバルト)彼のおかげだ
00:22:08
彼が私に教えてくれた
00:22:11
これから 私のもとで秘書として
働いてくれることになった
00:22:18
信頼できる青年だ
00:22:28
{\an8}♪~
00:23:33
{\an8}~♪