00:00:03
(エルナ)
あの子たち ここに来る前は
00:00:06
本当に2人っきりだったんだからね
00:00:09
(エルナ)チェコスロバキアの
国境線辺りで保護された時も⸺
00:00:14
手をつないで歩いてたそうよ
2人 寒さで震えながら
00:00:21
(テンマ)当時の東側の孤児院は
ひどい状況だったと聞いていますが
00:00:25
(エルナ)511キンダーハイムと
一緒にしないでほしいね
00:00:28
えっ?
00:00:32
(ドアの開く音)
00:00:35
(インゲ)ん…
00:00:39
あ…
00:00:41
(エルナ)インゲ
トイレは そっちじゃないでしょ
00:00:44
ねっ ほら
00:00:46
(インゲ)うっ うう…
00:00:49
ママ!
00:00:50
ママ!
00:00:50
{\an8}(インゲの泣き声)
00:00:50
{\an8}(インゲの泣き声)
00:00:50
{\an8}(インゲの泣き声)
00:00:50
大丈夫 大丈夫
怖いことなんて何にもないよ
00:00:55
さあ 1人で
トイレに行けるでしょ?
00:00:58
(インゲのすすり泣き)
00:01:05
(エルナ)あの子たちは 本当の
親の愛情というものを知らない
00:01:10
人間として成長していくには
愛情しかないのよ
00:01:14
あんたの言ったとおり
当時の東側の孤児院は
00:01:16
そりゃあ ひどいものだったわ
00:01:18
ここもね 元は47孤児院なんて
数字で呼ばれる場所だった
00:01:24
でも 私たちは それでも
何とかしようと 必死にやってきた
00:01:28
少しでも
政府の言いなりにならないように
00:01:30
511キンダーハイムのように
ならないようにね
00:01:36
あそこは厚生省と内務省
共同管轄の特別孤児院だったけど
00:01:41
その意味が分かる?
00:01:43
(テンマ)いえ
00:01:44
内情はね
内務省によって管理されてたのよ
00:01:49
だって あそこは旧東ドイツの…
00:01:52
実験場だったんだから
00:02:04
♪~
00:03:20
~♪
00:03:33
(テンマ)実験場?
00:03:35
(エルナ)子供たちを
完全な兵士に変える⸺
00:03:37
プロジェクトが進行していたの
00:03:40
精神改造
00:03:44
人間改造の研究
00:03:50
孤児たちに徒党を組ませ
00:03:52
その中で彼らが どう憎み合い
どう争い合うかの観察
00:03:58
哀れみをまったく感じない⸺
00:04:00
冷徹な人間を
いかに生み出すかの実験
00:04:05
そんな子供たちが 成長して
00:04:08
どんな人間になるか 想像がつく?
00:04:11
でも 今となっちゃ
00:04:13
あそこで行われていたことを
証明する手立てはない
00:04:16
壁崩壊直前に それに関する資料は
燃やされてしまったらしいからね
00:04:22
プロジェクトに関わった
内務省関係者も逃亡したし
00:04:28
でも 私 聞いたことがあるんだ
00:04:32
たった1人だけ
うまく経歴をごまかして
00:04:36
この国に
とどまれた人間がいるって
00:04:40
そいつが 511キンダーハイムの⸺
00:04:42
悪魔のプロジェクトを
観察していた人物だって
00:04:46
彼の本当の身分は
00:04:48
内務省警察に所属する
小児専門の精神科医だったらしい
00:04:54
表向きは 厚生省の
地区担当官とか言いながらね
00:04:59
(テンマ)厚生省の… 地区担当官
00:05:08
(エルナ)インゲ
トイレは済んだかい?
00:05:10
(インゲ)うん
00:05:11
(エルナ)いい夢 見るんだよ
00:05:14
さあ
00:05:15
(インゲ)おやすみなさい
00:05:17
(エルナ)おやすみ
00:05:20
まあ そんな話も全て
例の事件で闇の中だけどね
00:05:26
例の… 事件?
00:05:28
511キンダーハイムで
何が起きたんですか?
00:05:32
ちょっと しゃべりすぎたようね
嫌なこと思い出しちゃった
00:05:37
お願いします あそこで
何があったか教えてください
00:05:46
(ディーター)サッカーボールは?
00:05:48
(看護師)えっ?
(ディーター)僕の…
00:05:51
(ディーター)
僕のサッカーボールは?
00:05:53
ああ
00:05:59
はい ここにあるわよ
00:06:04
(ディーター)ハハッ
00:06:05
(看護師)でも サッカーは
ケガが治るまで お預けよ
00:06:09
もうすぐ あのおじさんが
迎えに来るって言ってたから
00:06:12
それまで静かに寝てるのよ
00:06:19
(エルナ)私もね 本当のことを
知ってるわけじゃないよ
00:06:23
当時 東ドイツ政府は
徹底した箝口令(かんこうれい)を敷いたからね
00:06:28
最初は 511キンダーハイムの
院長の変死から始まった
00:06:33
その直後 教官たちの間で
00:06:36
院長の後釜を狙っての
勢力争いが起きたの
00:06:41
院内は無政府状態になったらしい
00:06:44
子供たちの内部抗争も
コントロールできない状況だった
00:06:49
あそこから
よく ヨハンは出られたもんだよ
00:06:52
それで 511キンダーハイムは
どうなったんですか?
00:06:56
みんな 死んだのさ
00:06:58
(テンマ)えっ?
00:07:00
(エルナ)教官を含めて
孤児院のメンバー全員が
00:07:04
あそこで殺し合ったんだよ
00:07:06
(テンマ)あっ…
00:07:16
(テンマ)世界が真っ暗だなんて
大ウソだ
00:07:20
あしたは きっと いい日だ
00:07:22
(ドアの開く音)
00:07:24
(看護師)ディーター
00:07:25
(ディーター)ん…
(看護師)お迎えが来たわよ
00:07:28
あっ
00:07:49
(ディーター)
ねえ ハルトマンさん
00:07:52
うちに帰るんじゃないの?
00:07:53
(ハルトマン)いや
寄り道していこう
00:07:57
あ… あそこは やだよ
00:08:08
うっ
00:08:09
嫌だ… やだよ!
00:08:11
(ハルトマン)ディーター
00:08:13
ディーターは… いい子だろ?
00:08:16
うっ…
00:08:22
うっ うう…
00:08:29
(テンマ)何だって!
00:08:30
私が帰ってくるまで ディーターを
渡さないでくれって言ったでしょ!
00:08:34
で… でも…
00:08:36
(看護師)あの人
あの子の里親ですよ
00:08:39
それに とても紳士的な人だったわ
あなたより ずっとね
00:08:44
(テンマ)あっ い… いや…
00:08:47
しかし あの男は…
00:08:49
(看護師)それに あの子
00:08:50
フッ… 自分から進んで
彼についていったのよ
00:08:57
(テンマの荒い息)
00:09:02
ディーター!
00:09:09
(荒い息)
00:09:17
ディーター
00:09:26
(テンマ)ディーター?
00:09:31
戻ってないのか
00:09:38
ハルトマンの書斎か
00:10:21
時期はバラバラみたいだが
どれも同じ場所で撮ってる
00:10:26
どこだ? ここは
00:10:28
はっ
00:10:37
(テンマ)ヨハン
00:10:43
一緒に写っている この男は
誰だろう
00:10:50
そうか
00:10:52
写真は全て511キンダーハイムで
撮られたものだ
00:10:57
10年以上も前から 現在まで
00:11:04
(エルナ)孤児院のメンバー全員が
あそこで殺し合ったんだよ
00:11:13
ディーター
00:11:15
もしかしたら…
00:12:03
うん?
00:12:07
(ボールの弾む音)
00:12:31
ああっ
00:12:40
ディーター!
00:12:44
ディーター 待ってろ!
今 行く
00:12:49
はっ
00:12:54
(ハルトマン)この子には
見えないらしい
00:12:56
(テンマ)ハルトマン!
00:12:59
(ハルトマン)あの時
ヨハンが ここから見ていたものが
00:13:04
この子には見えないんだよ
00:13:09
ダメだ またダメだった
00:13:14
この子もヨハンじゃない
00:13:16
んっ…
00:13:24
(ハルトマン)みんな…
みんな 死んでいた
00:13:30
(テンマ)んっ…
00:13:31
(ハルトマン)10年前の話だ
00:13:34
教官も孤児も
50人全員が息絶えていた
00:13:44
ヨハンは それを眺めていた
00:13:49
この場所から 彼は眺めていた
00:13:53
あ…
00:14:02
(ハルトマン)ヨハンは
ただ 眺めていたんだよ
00:14:14
(ハルトマン)ヨハンに尋ねたよ
00:14:16
一体… 一体 何をしたんだと
00:14:21
彼は こう答えた
00:14:24
こうして 油の染み込んだ布を
たき火に かざしてね
00:14:39
(ハルトマン)どうだい?
00:14:41
この意味が分かるかね?
00:14:44
“人が集まると
憎しみが生まれる”
00:14:47
“僕は それに ほんの少し
油を注いだだけだよ”
00:14:52
こう言ったんだよ
わずか10歳の少年がだよ
00:14:58
そして彼は やってのけたんだ
00:15:00
自分は指1本 動かさずに
50人もの人間を殺し合わせたんだ
00:15:08
(テンマ)あなたたちの…
あなたたちの実験が
00:15:11
彼を そんな人間に
してしまったんじゃないか!
00:15:16
私たちが?
00:15:18
そんな… とんでもない
00:15:22
とんでもないよ
00:15:23
えっ?
00:15:24
(ハルトマン)確かに
511キンダーハイムは
00:15:27
実験場だった
00:15:28
孤児たちを完璧な兵士に
育て上げるプロジェクトのね
00:15:33
今から思えば
それも ささやかな実験だ
00:15:38
ところが ヨハンは どうだ?
彼が兵隊?
00:15:43
とんでもない
00:15:45
彼は生まれながらの指導者だ
00:15:48
彼は 頂点に立つべき
人間だったんだよ
00:15:51
私たちが
あんな芸術品を作れるわけがない
00:15:56
彼は 最初から人間以上…
怪物のような存在だったんだ
00:16:03
彼は予言した
00:16:05
“人間は 結局
皆 憎み合い 殺し合う”
00:16:10
ヨハンの目標は何だったと思うね?
00:16:15
彼は こう言ったんだ
00:16:17
“この世の終わりに
たった1人 生き残ることだ”とね
00:16:34
(ハルトマン)ディーター
00:16:37
あしたは暗闇だ
00:16:40
お前も
少しでもヨハンに近付かないと
00:16:46
なのに…
00:16:51
どうして ダメなんだ?
00:16:56
どうして
ヨハンのようになれないんだ!
00:17:02
やめろ ハルトマン!
これ以上 暴力を振るえば 撃つ!
00:17:07
(ハルトマン)出ていってくれ
00:17:09
これは私たちの問題だ
出ていってくれ
00:17:13
(テンマ)ディーター!
下りてくるんだ!
00:17:18
(ハルトマン)Dr.(ドクター)テンマ
00:17:19
あんた ヨハンのことを
知りたいんでしょ?
00:17:25
ヨハンのことを知って どうする?
00:17:29
見つけ出して殺そうなんて
無理な話だと思うよ
00:17:35
フッ… まあ いい
00:17:39
1つだけ 情報をあげよう
00:17:42
そのかわり それを聞いたら
私たちのことは放っておいてくれ
00:17:57
ヴォルフ将軍を探せ
00:18:00
最初に ヨハンの才能を
見いだしたのは彼だ
00:18:04
きっと どこかで
生きてるはずだよ
00:18:07
あなたの書斎にあった
あの写真の男か
00:18:11
ヨハンと一緒に写っていた
あの男か!
00:18:14
ヨハンを連れてきたのも彼だし
あの人なら何か知っている
00:18:19
さあ 行ってくれ
00:18:23
(テンマ)ディーター!
00:18:25
そこから下りるか 下りないか
自分で決めるんだ
00:18:32
心配いらない
00:18:33
ハルトマンがライフルの引き金に
指を掛けたら 私が撃つ
00:18:39
(ハルトマン)フッ フフフ…
00:18:44
(テンマ)ディーター
00:18:46
自分で決めろ
君自身で決めるんだ!
00:18:50
(ハルトマンの笑い声)
00:18:54
私と別れるなんて
できるわけないよな? ディーター
00:18:59
だって お前は 私の子供だもの
00:19:08
そういうわけだ Dr.テンマ
00:19:11
さあ 消えてくれ
00:19:14
(物音)
00:19:15
(ハルトマン)うん?
00:19:39
ディーター
00:19:42
そうだ 大丈夫
00:19:44
そのまま ゆっくり ゆっくり
00:19:48
ディーター 戻っておいで
00:19:51
私のかわいいディーター
ディーター!
00:19:54
私から離れて 生きていけると
思っているのか ディーター!
00:19:59
やめろ ハルトマン 動けば撃つ!
00:20:02
愛しているんだ! ディーター!
00:20:07
世界は真っ暗だ
あしたは真っ黒なんだぞ!
00:20:16
テンマのおじさんが言ってた
00:20:19
あしたは いい日だって
00:20:21
ディーター!
00:20:27
(テンマ)勇気を持て 怖くない
00:20:29
(荒い息)
00:20:36
ううっ… ううう…
00:20:40
ディーター! ううう…
00:20:43
ディーター!
00:20:45
うううっ… ディーター!
00:20:49
(ハルトマンの泣き声)
00:20:56
(ハルトマン)ディーター!
00:21:00
ディーター!
00:21:11
(テンマ)いいかい?
ここからバスに乗って
00:21:14
キューネン通りで降りるんだ
00:21:16
すぐ目の前の孤児院だ
00:21:18
そこのエルナ・エルナティーツェって
先生に これを渡すんだ
00:21:23
見た目は おっかないけど
根は すっごく優しいおばさんだ
00:21:28
元気でな
00:21:30
私は 訳あって街には行けない
ここでお別れだ
00:21:35
あと2~3分でバスが来る
それじゃあな
00:21:41
サッカー うまくなるんだぞ
00:21:56
(テンマ)
ダメだ 私に ついてきちゃ
00:21:59
それっ
00:22:04
ディーター
00:22:05
ダメだって言ってるだろ
私に ついてきちゃ
00:22:17
私に ついてきちゃ…
00:22:28
{\an8}♪~
00:23:32
{\an8}~♪