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コンビニ人間 - 1

コンビニ人間にんげん

コンビニエンスストアは、おと満ちみちている。

きゃく入っいっってくるチャイムのおとに、店内てんない流れながれ有線放送ゆうせんほうそう新商品しんしょうひん宣伝せんでんするアイドルの声。こえ。

店員てんいん掛け声かけごえに、バーコードをスキャンする音。おと。

かごにもの入れいれ音、おと、パンのふくろ握らにぎられるおとに、店内てんない歩きあるき回るまわるヒールの音。おと。

全てすべて混ざまざ合い、あい、「コンビニのおと」になって、わたし鼓膜こまくにずっと触れてふれている。

売り場うりばのペットボトルが一つひとつ売れ、うれ、代わりかわりおくにあるペットボトルがローラーで流れながれてくるカラララ、という小さいちーさいおとかおをあげる。

冷えひえ飲み物のみもの最後さいごにとってレジに向かむかうおきゃく多いおおいため、そのおと反応はんのうして身体しんたい勝手かって動くうごくのだ。

ミネラルウォーターを手にてに持っもっ女性客じょせいきゃくがまだレジに行かいかずにデザートを物色ぶっしょくしているのを確認すかくにんすると、手元てもと視線しせん戻す。もどす。

店内てんない散らちらばっている無数むすうおとたちから情報じょうほう拾いひろいながら、わたし身体しんたい納品のうひんされたばかりのおにぎりを並べてなべている。

あさのこの時間、じかん、売れうれるのはおにぎり、サンドイッチ、サラダだ。

向こうむこうではアルバイトの菅原すがわらさんが小さちいさなスキャナーで検品けんぴんしている。

わたし機械きかい作っつくっ清潔せいけつ食べ物たべもの整然せいぜん並べてなべていく。

新商品しんしょうひん明太子めんたいこチーズは真ん中まんなか二列にれつに、そのよこにはおみせ一番いちばん売れうれているツナマヨネーズを二列にれつに、あまり売れうれないおかかのおにぎりははじっこだ。

スピードが勝負しょうぶなので、あたまはほとんど使わつかわず、わたし中になかに染みそみこんでいるルールが肉体にくたい指示しじ出しだしている。

チャリ、という微かかすか小銭こぜにおと反応はんのうして振り向き、ふりむき、レジのほうへと視線しせんをやる。

てのひらやポケットのなか小銭こぜに鳴らならしているにんは、煙草たばこ新聞しんぶんをさっと買っかっ帰ろかえろうとしているにん多いおおいので、おきんおとには敏感びんかんだ。

案の定、あんのじょう、かんコーヒーを片手かたて持ち、もち、もう片方かたほうをポケットに突っ込んつっこんだままレジに近付いちかづいている男性だんせいがいた。

素早くすばやく店内てんない移動いどうしてレジカウンターの中になかに身体しんたいをすべりこませ、きゃく待たまたせないように中になかに立ったっ待機たいきする。

「いらっしゃいませ、おはようございます!」

軽いかるい会釈えしゃくをして、男性客だんせいきゃく差しさし出しだしかんコーヒーを受け取る。うけとる。

「あー、あと煙草たばこの5ばん一つひとつ

「かしこまりました」

すばやくマルボロライトメンソールを抜きぬき取り、とり、レジでスキャンする。

年齢ねんれい確認かくにんのタッチをお願いねがいします」

画面がめんをタッチしながら、男性だんせい目線めせんがファーストフードが並んならんだショーケースにすっと移っうつったのを見て、みて、ゆび動きうごき止める。やめる。

何かなにかおとりしますか?」

こえをかけてもいいが、きゃく買うかうかどうか悩んなやんでいるように見えみえるときは、一歩いっぽ引いひい待つまつことにしている。

「それと、アメリカンドッグ」

「かしこまりました。

ありがとうございます」

をアルコールで消毒しょうどくし、ケースをあけてアメリカンドッグを包む。つつむ。

冷たいつめたい飲物のみものと、温かいあたたかいものは分けわけふくろにお入れいれしますか?」

「ああ、いい、いい。一緒にいっしょに入れいれて」

かんコーヒーと煙草たばことアメリカンドッグを手早くてばやくSサイズのふくろ入れいれる。

その間、かん、ポケットの中のなかの小銭こぜに鳴らならしていた男性だんせいが、ふと思いおもいついたようにむねポケットに入れいれる。

その仕草しぐさから、電子でんしマネーで支払いしはらいをするのだなと咄嗟とっさ判断はんだんする。

支払い、しはらい、スイカで」

「かしこまりました。

そちらにスイカのタッチをお願いねがいします」

きゃく細かいこまかい仕草しぐさ視線しせん自動的じどうてき読みよみ取っとって、身体しんたい反射的はんしゃてき動く。うごく。

みみきゃく小さちいさ動きうごき意思いしをキャッチする大切たいせつなセンサーになる。

必要以上ひつよういじょう観察かんさつして不快ふかいにさせてしまわないよう細心さいしん注意ちゅうい払いはらいながら、キャッチした情報じょうほう従ってしたがって素早くすばやく動かうごかす。

「こちらレシートです。

ありがとうございました!」

レシートを渡すわたすと、「どうも」と小さくちーさくれい言っていって男性だんせい去っさっ行った。いった。

「お待たまたせいたしました。

いらっしゃいませ、おはようございます」

わたし次につぎに並んならんでいた女性客じょせいきゃく会釈えしゃくをする。

あさという時間じかんが、この小さちいさひかりはこなかで、正常せいじょう動いうごいているのを感じかんじる。

指紋しもんがないように磨かみがかれたガラスのそとでは、忙しくいそがしく歩くあるくにんたちの姿すがた見えみえる。

一日ついたち始まり。はじまり。

世界せかい覚まさまし、世の中よのなか歯車はぐるま回転かいてん始めはじめ時間。じかん。

その歯車はぐるま一つひとつになって廻りまわり続けつづけている自分。じぶん。

わたし世界せかい部品ぶひんになって、この「あさ」という時間じかんなか回転かいてん続けつづけている。

再びふたたびおにぎりを並べならべ走ろはしろうとしたわたしに、バイトリーダーのいずみさんがこえをかける。

古倉こくらさん、そっちのレジ、五千円ごせんえんさつ何枚なんまい残っのこってるー?」

「あ、二枚にまいしかないです」

「えーやばいな、なんだか今日、きょう、まんけん多いおおいねー。

うら金庫きんこにもあんまりないし、あさピークと納品のうひん落ち着いおちついたら、午前中ごぜんちゅう銀行ぎんこう行っていってこようかな」

「ありがとうございます!」

夜勤やきん足りたりないせいでこのところ店長てんちょう夜勤やきんにまわっており、ひるかんわたし同世代どうせだいのパートの女性じょせいいずみさんが社員しゃいんのようになって、みせをまわしている。

「じゃあ、10ときごろちょっと両替りょうがえ行くいくねー。

あ、それと、今日、きょう、予約よやくのいなりずしがあるから、お客様きゃくさま来たきた対応たいおうよろしくね」

「はい!」

時計とけい見るみると9時半じはんをまわっている。

そろそろあさピークも収まおさまり、納品のうひん手早くてばやく済ますませてひるピークの準備じゅんびをしなければならない時間じかんだ。

わたし背筋せすじ伸ばし、のばし、再びふたたび売り場うりば戻っもどっておにぎりを並べならべ始めはじめた。

コンビニ店員てんいんとして生まれうまれまえのことは、どこかおぼろげで、鮮明せんめいには思いおもいだせない。

郊外こうがい住宅地じゅうたくち育っそだっわたしは、普通ふつういえ生まれ、うまれ、普通ふつう愛さあいされて育っそだった。

けれど、わたし少しすこし奇妙きみょうがられる子供こどもだった。

例えばたとえば幼稚園ようちえんのころ、公園こうえん小鳥ことり死んしんでいたことがある。

どこかで飼わかわれていたと思わおもわれる、青いあおい綺麗きれい小鳥ことりだった。

ぐにゃりとくび曲げまげ閉じとじている小鳥ことり囲んかこんで、他のほかの子供こどもたちは泣いないていた。

「どうしようか……?」

一人ひとり女の子おんなのこ言ういうのと同時に、どうじに、わたし素早くすばやく小鳥ことりてのひら上にうえに乗せのせて、ベンチで雑談ざつだんしているははところ持っもっ行った。いった。

「どうしたの、恵子?けいこ?

ああ、小鳥ことりさん……!

どこから飛んとんできたんだろう……かわいそうだね。

はか作っつくってあげようか」

わたしあたま撫でなで優しやさし言ったいったははに、わたしは、「これ、食べたべよう」と言った。いった。

「え?」

「お父さん、とうさん、焼き鳥やきとり好きすきだから、今日、きょう、これを焼いやい食べたべよう」

良くよく聞こきこえなかったのだろうかと、はっきりとした発音はつおん繰り返すくりかえすと、はははぎょっとし、となりにいた他のほかののお母さんかあさん驚いおどろいたのか、はなあなくち一斉いっせいにがばりと開いひらいた。

変なへんなかおだったので笑いわらいそうになったが、そのにんわたし手元てもと凝視ぎょうししているのを見て、みて、そうか、一羽いちわじゃ足りたりないなと思った。おもった。

「もっととってきたほうがいい?」

近くちかく二、三にさん羽並はなみんで歩いあるいているすずめにちらりと視線しせんをやると、やっとわれ返っかえっははが、「恵子けいこ!」

ととがめるようなこえで、必死ひっし叫んさけんだ。

小鳥ことりさんはね、おはかをつくって埋めうめてあげよう。

ほら、みな泣いないてるよ。

友達ともだち死んじしんじゃって寂しいさびしいね。

ね、かわいそうでしょう?」

「なんで?

せっかく死んしんでるのに」

わたし疑問ぎもんに、はは絶句ぜっくした。

わたしは、ちちははとまだ小さいちーさいいもうとが、喜んでよろこんで小鳥ことり食べてたべているところしか想像そうぞうできなかった。

ちち焼き鳥やきとり好きすきだし、わたしいもうと唐揚げからあげ大好きだいすきだ。

公園こうえんにはいっぱいいるからたくさんとってかえればいいのに、何でなんで食べたべないで埋めうめてしまうのか、わたしにはわからなかった。

はは懸命けんめいに、「いい、小鳥ことりさんは小さくちーさくて、かわいいでしょう?

あっちでおはか作っつくって、みなでおはなをお供えそなえしてあげようね」と言い、いい、結局けっきょくその通りとうりになったが、わたしには理解りかいできなかった。

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